車業界における最新のカーエアコン動向を探ろうと、東京モーターショー2017を見学しました。出掛けた日は10月30日、台風一過で関東地方は「木枯らし1
車とカーエアコン最新事情(東京モーターショー2017 ぶらり探訪)
No.654 2017年12月
写真1:会場の様子
車業界は欧州メーカーのディーゼル排ガス規制不正対策、国内では過剰な燃費競争による燃費不正表示などの影響か、燃費競争は鎮静化した一方で、環境保護を最重視して、電気自動車(EV)の性急な普及に向けた、政策的宣言/取組が始まっています。会場を訪れる前は、エンジンを持たないピュアEVの展示/主力訴求を想像していましたが、特定メーカーを除き、ピュアEV展示は自動運転と連携したコンセプトカーが多く、市販には今しばらく時間がかかるように思えました。(写真3)開催前の新聞報道等でEV切替宣言が盛んな欧州メーカーの展示車は、ガソリン車がほとんど、ハイブリッド車(HEV)/プラグインハイブリッド車(PHEV)がごく一部でした。日本の完成車メーカーがEV/PHEV/HEV開発と展示の強化を行っていることに比べ、温度差があるように思えました。
完成車メーカーの展示が多くを占める会場で、カーエアコンに関する部品/冷媒サイクル制御関係の展示説明ブースを持つ複数社に、最新のカーエアコン周辺事情を聴いてみました。車搭載コンプレッサーの冷媒圧縮機構は、家庭用エアコン等で良く知られているものとは形状が大きく違っていますが、開発の主流はコンパクト化、電動化のようです。会場では、外部ベルト駆動仕様と内蔵電動モーター仕様の展示が拮抗していましたが、HEV/PHEV/EV構成が拡大する完成車メーカー動向を考えれば、コンプレッサーの電動化傾向は、今後ますます加速すると思われます。コンパクト化では、家庭用エアコン搭載のロータリコンプレッサーに使われている圧縮機構とよく似た機構を採用して、車載スペースの縮小/高効率を訴求しているものもありました。(写真4)
家庭用・業務用空調機と異なり、カーエアコンの暖房は、エンジンの冷却水/バッテリー放熱/駆動モータードライブ回路(高出力インバーター)放熱等、多くの発熱源を有効利用しており、走り始めのヒータによる補助加熱の後は、温排熱利用で快適に車室内暖房ができました。しかしながら低燃費性能が進み、低CO2排出車になるとエンジンを含む車の補機類の発熱量が減り、車室内暖房の立ち上がりに時間がかかることが課題となって来ました。課題解決を先取りしたヒートポンプ利用の量産形カーエアコンが、初めて実機展示されていた事は、とても興味が湧くニュースです。このシステムは、最新のPHEV車用に開発されたカーエアコンシステムで、ヒートポンプ暖房運転時の低外気温時能力向上の為、ガスインジェクション方式と言う、冷凍空調機器業界ではよく知られている冷凍サイクル方式を利用しています。コンプレッサモーターは専用のインバータ回路で駆動しています。(写真5、6)
カーエアコン製造メーカーによれば、R1234yf利用に向けた製品開発は完了しており、欧州向けでは輸出実績があるとのことです。完成車メーカーの意向によれば、今のところ、国内ではR1234yfへの切り換えの動きはない、とのことです。R1234yfは、コンプレッサを含む冷凍サイクル部品の基本設計を変える必要はなく、膨張弁制御他、細かな冷媒制御上の工夫で使いこなせるレトロフィット冷媒です。加えて、ガスインジェクション方式等、R134aで開発した冷凍サイクルの工夫は、R1234yfでも同等の効果があると説明をいただきました。
会場でのカーエアコン部品メーカーへの聴き取りで、車業界とカーエアコン事情を教えていただきました。冷凍空調機器業界は、少しでもGWP値が低い冷媒の安全性/経済性/信頼性/省エネ性能が確かめられたなら、使える機器から、より低GWP冷媒を積極的に採用し、温室効果ガス排出量削減に努力しています。一方、車業界では、直近の最優先課題は走行時のCO2排出量削減、自動ブレーキ等の事故防止対応からドライバー支援の自動運転への実現と思われます。今後もEV化/自動運転制御等への開発投資は続く一方で、代替冷媒切替対応は今後の検討課題と思われました。