この度当工業会発行のガイドラインJRA GL-20(特定不活性ガスを使用した冷媒設備の冷媒ガスが漏えいしたときの燃焼を防止するための適切な措置)が、
NITE大阪事業所 施設見学会報告
No.660 2018年11月
9月27日(木)当工業会主催の施設見学会として独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の大阪事業所を訪問しましたので報告いたします。NITEは経済産業省管轄の独立行政法人であり、①国際評価技術 ②製品安全 ③適合性認定 ④化学物質管理 ⑤バイオテクノロジー の5つの分野において技術上の評価や品質に関する情報収集、評価、提供等を行っている機関である。行政執行法人型の独立行政法人であるため、職員の身分は国家公務員とされている。今回訪問した大阪事業所は大阪南港コスモスクエア地区にあり、平成28年5月に開所した新しい事業所である。ここには国際評価技術分野の大型蓄電池システム試験評価施設(NLAB)と製品安全センターがあり、その試験設備等を見学させていただいたので以下に報告する。
〈大型蓄電池システム試験評価施設(NLAB)〉
○多目的大型実験棟(Large Chamber)
これまで国内にはメガワット級の蓄電システム用試験設備がなく、試験、認証のためには海外に搬出して試験・認証を行う必要が有った。このような試験を国内で可能とし、米国や中国に対抗すべく建設されたのが本実験棟である。
海外の試験設備は屋外に有り、天候の影響を受けるのに対し、本試験棟は世界初、世界最大(内寸 幅30m×奥行き18m×高さ16m)の恒温型蓄電システム試験設備であり、外部の影響を受けない試験が可能。壁は1.2mのコンクリートの表面に7mm厚の鋼板を貼り、最高800℃の耐熱塗装を施し、大型の蓄電池が一気に破壊しても耐えられる仕様となっている。
室内温度は摂氏25±5度で設定可能。床に吸気口、天井に排気口が設けられ、発火、発煙時のガスを滞りなく排出させることで試験品が燃え尽きるまでの様子をビデオ撮影可能である。入り口の寸法は幅3.7m、高さ4.2mあるため、大型クレーンも入室可能。
試験用の設備は試験者が都度持ち込む必要が有るが、VTR、サーモビュアー、内部監視カメラ、データロガーなどの付帯設備は常設で使用可能となっている。
写真1:多目的大型実験棟外観
○充放電試験用電源設備
高電圧、大電流の試験時に近隣マンションなどの一般電源に悪影響を与えないよう、関西電力の系統から切り離した試験用電源を供えている。充放電試験用に2MW/2MWhの入出力で、複数の電圧(300V/400V/480V)に対応している。
写真2:充放電試験用電源設備
○排煙処理設備
実験棟からの排気を導入し処理を行った後に大気中に放出する。NLAB専用の設計となっており、粉じん除去 →NOx、SOx除去 →塩酸、フッ酸除去 →脱臭 の順に処理を行い、最終的に水蒸気のみを大気に排出する。ガス濃度はリアルタイムで監視している。ただし、フロン類の除去は出来ないとの事であった。
写真3:排煙処理設備
○水没試験用水槽
水害、津波を想定した水没試験を実施するための直径2.4m、高さ3mの水槽。移動式で試験時には多目的大型実験棟に持ち込んで使用する。
写真4:水没試験用水槽
○機能別実験棟
モジュール・蓄電池操作盤の使用状態を模擬した6種類の試験が実施可能な実験室棟。全ての試験室に専用測定室を別に設置し、安全性を確保した試験実施が可能となっている。各部屋とも室内温度を摂氏25±5度で設定可能。今回は以下の試験室について見学を行った。
写真5:機能別実験棟外観
・落下試験室
最大落下高さ5.7m、蓄電池別置タイプであれば3mからの落下試験が可能。質量約2tまでの製品の落下試験が可能で、屋内にあるため風の影響を受けない。備え付けのハイスピードカメラで落下時の破壊挙動が観察可能である。
写真6:落下試験室(天井)
・圧壊試験室
約2mまでの試験品の圧壊及び釘刺し試験を実施可能。最大荷重30t、最大ストローク1mで速度0.1~80mm/secで制御可能。なお、圧壊試験室と前述の落下試験室については、試験品の発火時はすぐに消火することを条件に、発火の可能性がある試験を許容している。
写真7:圧壊試験室
・環境試験室1
温度摂氏-40度~85度、湿度10~95%で制御可能な恒温室(内寸幅2.5m×奥行き2.1×高さ3m)。他に温度のみコントロールできる環境試験室2もあるとのこと。
・輸送振動試験室
質量1.5tまでの試験品に対応、周波数範囲1~200Hz、最大加速度12gで様々な輸送体の振動を再現する。振動方向は1方向だが加振器の向きを替えることで上下、左右の振動を切替可能。また電気自動車などのバッテリーを想定し、充放電しながらの振動試験もできる。
写真8:輸送振動試験室
・地震波再現試験室
質量最大2tまでの試験品に対応。XYZの3軸同時加振動が可能。阪神大震災、東日本大震災、熊本地震など主な地震の地震波をライブラリとして保有しており再現可能。ユーザー独自データを使った振動試験も出来る。
なお、大型蓄電池システム試験評価施設という名称であるが、これらの試験室は経産省管轄の工業製品であれば試験を行うことが出来る。試験の形態は共同試験ということで、NLABの職員と依頼元の技術者が一緒に試験を行うことになる。(ただし成果物の所有権は依頼元にある。)
国の機関であるため試験費用は実費と職員の人件費のみ徴収と安価であるが、民業を圧迫しないために民間の試験場では行えない試験のみ受けており、民間で行えるものは他の試験場を紹介しているとのことである。
〈製品安全センター〉
〇燃焼器具調査室
工業製品の発火について調査を行う試験室。当日は束ねたコードに約19Aの電流を通電し続け、コードが発火するデモを実演いただいた。
写真9:コード発火のデモの様子(発火後)
〇事故品調査室
消防やメーカなど立会いの元、火災などの事故品の調査を行う。週3回程度調査を行っているとの事。室内でX線やCTスキャンが実施可能であり、まず内部の非破壊調査を行ったのち分解調査を行っている。
写真10:事故品調査室(奥に見えるのはX線分析装置)
〇展示場(管理実験棟ロビー)
消費者生活用製品の事故事例について、再現実証の結果なども含め紹介し、注意喚起を行っている。当日は ・リチウムイオンバッテリーの発火 ・カセットボンベの発火 ・古い扇風機からの発火 ・石油温風暖房機による一酸化炭素中毒事故 ・アウトドア製品での事故 など十数事例が展示されていた。
【所感】
海外の試験設備に対抗すべく国の政策として建設された試験場であり、そのスケールの大きさに圧倒されたほか、大変に興味深い施設であった。特に大型の製品で危険を伴う試験を安全に行うことができるのが強みであろう。
蓄電システム以外でも試験は可能との事であるので、これまで危険であきらめていた試験などがあれば利用を検討してみてはいかがだろうか。最後に、今回の見学会で細部まで詳細にご説明いただいたNITEの佐竹様、岡本様、佐藤様、山根様ほか関係各位の皆様に厚く御礼申し上げる。
(参加者19名)
以上
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