去る2月13日、ダイキン工業株式会社 東京支社会議室にて、当工業会主催の講演会を開催したので、その概要を報告する。今回は「冷凍空調分野における最新動向
講演会報告
「冷凍空調分野における最新動向と課題への取組み」
No.663 2019年5月
去る2月13日、ダイキン工業株式会社 東京支社会議室にて、当工業会主催の講演会を開催したので、その概要を報告する。今回は「冷凍空調分野における最新動向と課題への取組み」と題して、4つのテーマで講演会を行った。入場者は約80名で満席となった。発表テーマは会員企業にとって関心が高く好評価であった。
◇講演1
フロン対策について
~オゾン層保護法改正を中心に経済産業省 オゾン層保護等推進室 直井 秀介
◇講演2
冷凍空調業界が直面する課題と今後の対応
一般社団法人 日本冷凍空調工業会 岡田 哲治
◇講演3
微燃性冷媒を使用した設備用エアコンのリスク評価
JRAIA設備用リスクアセスメントSWG 山本 昌由
◇講演4
低温暖化冷媒HFC-32採用のマルチエアコン『GREENマルチ』&
『HEXAGON FORCE32』モジュールチラー
ダイキン工業株式会社 空調営業本部 水野 雅士
講演1 フロン対策について(オゾン層保護法の改正を中心に)
経済産業省 オゾン層保護等推進室 直井 秀介
写真1:経済産業省 オゾン層保護等推進室 直井秀介氏
フロンは冷媒用途に開発され、現在様々な産業用途で使用・消費されているが、オゾン層破壊や温室効果といった環境への悪影響が指摘されている。その対策として、国際的に採択されたモントリオール議定書・京都議定書を受け、国内でもオゾン層保護法やフロン排出抑制法などの対策法制が講じられてきた。(図1)
図1:フロン対策法制の全体像
その後、2016年10月のモントリオール議定書の改正(キガリ改正)を受け、国内担保措置として、2018年6月にオゾン層保護法が改正され、2019年1月1日から代替フロンの製造及び輸入を規制する等の措置を講ずることとなった。規制が開始される2019年から、国全体の代替フロンの生産量、消費量それぞれの限度を段階的に切り下げ、2036年には基準値(2011~2013年実績の平均値)から85%まで削減した水準とする。
2029年以降の削減義務は特に厳しくなるため、温暖化への影響の少ないグリーン冷媒及びそれを活用した製品の開発・導入の推進を計画的に行う。(図2)
図2:改正オゾン層保護法による代替フロンの段階的削減
具体的な枠組みとしては、代替フロンの安定供給の確保や事業の継続性に留意しつつ、消費量(製造-輸出+輸入。いわゆる国内出荷量)の削減を進めるため、一定の計算に基づいて各事業者の申請基準を決定し、事業者一律に年3.8%の削減率が課される。また、キガリ改正を受け、特に厳しくなる2029年以降の削減義務達成のため、2025年までの使用見通しの見直し及び2029年の使用量見通しの設定を、2021年分の消費量の割当を行う2020年後半に間に合うように実施することが必要になる。
政府では、分野(家庭用冷蔵庫、自動販売機、カーエアコン、超低温冷凍冷蔵庫、業務用冷凍冷蔵庫、業務用エアコンなど)ごとに冷媒導入状況をまとめ、グリーン冷媒技術の開発や導入を計画的に推進していく。具体的には、経済産業省では代替技術が見込まれない分野における次世代冷媒・冷凍空調技術及び評価手法について2019年度6.5億円の予算案額としており、NEDOに交付金を拠出して2018年~2022年に大学、民間企業等に対し開発事業を公募している。2月15日に説明会、公募締切りは3月13日となっている。
一方で環境省はコスト等の課題を有する分野での導入支援(省エネ型自然冷媒機器導入加速化事業)を行っている。2019年度予算案75億円。公募開始4月~5月、2018年~2022年の5年計画となっている。
他にも、フロン類使用製品の低GWP・ノンフロン化を進めるため、9区分の指定製品製造業者と輸入業者に対して温室効果低減の目標値を定め、加重平均で目標達成を求める「フロン排出抑制法に基づく指定製品制度」(いわゆるトップランナー制度)の導入も検討されている。
機器廃棄時のフロン回収率は3割程度に留まっており、現状のままでは目標の実現が困難となっている。関係者(ユーザー、フロン回収業者、解体業者、リサイクル業者)が相互に確認・連携し、ユーザーによる機器廃棄時のフロン類回収が確実に行われる仕組みとするため、建物解体時の立入検査拡大、解体業者等による機器有無の確認書面の保存の義務付け、フロン回収実施の確認ができない場合は機器の引取りを禁止するなどが、2020年4月からの施行に向けて準備が進められている。(図3)
図3:要因分析を踏まえた主な対策
人工的なフロン冷媒は、便利で比較的安全であるため世界経済を支えてきた。
しかしながら大量消費してきた結果、世界的な環境破壊を招いていることに気づいた。それに変わる冷媒には多くの課題がある。国として克服していくには、研究開発の推進、規制の強化、補助金制度の充実を図りながら、直面する課題を克服していきたいとの講演いただいた。
講演2 冷凍空調業界が直面する課題と今後の対応
一般社団法人 日本冷凍空調工業会 岡田 哲治
一般社団法人日本冷凍空調工業会 専務理事 岡田哲治氏から「冷凍空調業界が直面する課題と今後の対応」と題した講演があった。日冷工の概略や歴史、会員数や市場動向などの紹介に続き、地球環境保護政策やグローバルな取り組みの紹介、最後に日本がとるべく戦略について提言があった。
写真2:日本冷凍空調工業会 専務理事 岡田哲治氏
1. 日冷工について
1)概略
日冷工は1949年2月18日に日本冷凍機製造協会として設立した。会員数は賛助会員を含め2018年11月1日現在165社である。会員企業事業分野は空調機器(家庭用・業務用・車載用)、冷凍機器、冷蔵機器(業務用・産業用・車載用)、換気機器、ヒートポンプ機器(ヒートポンプ温水機器)、冷媒、冷凍空調関連部品である。
2)歴史
1949年2月18日「日本冷凍機製造協会」として設立。設立は5社でスタートした。1969年2月1日に法人化し「社団法人 日本冷凍空調工業会」と改称した。
1978年に神奈川県厚木市に機器性能検定所を開設した。1992年にICARHMA(冷
凍空調工業会国際評議会)が発足した。1995年にオゾン層保護のための代替冷媒の性能・信頼性に関する研究発表の場として「R22、R502代替冷媒国際シンポジウム」(“神戸シンポ”)がスタートした。2007年には欧州事務所をベルギーに設立した。
3)会員数及び委員会数の推移
2018年11月1日現在、正会員81社、特別会員22社、賛助会員62社で合計165社である。WGを含む委員会数は2011年から右肩上がりで活発に活動している。
2. 市場動向
1) 市場規模と冷媒転換状況
H29年度出荷台数は全体的にほぼ対前年比100%を超えている。使用冷媒は家庭用
エアコンはR410AからR32にほぼ100%切り替わっており、家庭用HP温水器はCO2及びR32にほぼ100%切り替わっている。業務用エアコンはR32化が進んでおり、小容量は41%まで切り替わっている。しかし、VRFの冷媒転換が進んでおらず、今後大きなポイントとなる。冷凍、冷蔵ショーケース、コンデンシングユニットは自然冷媒(CO2)採用も出てきた。
2)海外市場動向(家庭用及び業務用エアコン)
2017年度総出荷台数は110.56百万台であった。市場規模(台数)では中国が大きく、日本はほぼ安定した台数である。伸長率ではアジア(日本、中国除く)が大きい。
家庭用エアコンのA2L搭載機種の割合は日本はほぼ100%であるが、世界的には切換はこれからである
3. 地球環境保護政策(図4)
図4:地球環境保護政策
1)モントリオール議定書
2016年の“キガリ改正”<MOP28>から2018年11月エクアドルの首都キトで開催されたモントリオール議定書第30回締約国会<MOP30>(2018年11月時点の批准国数60か国)について、“キガリ改正”ではHFC冷媒の段階的削減を決議した。
また途上国を2グループに分割した。可燃性冷媒の基準の早期見直しのためタスクフォースが設立され、ワークショップの開催が決定した。MOP30では21の決議事項が確認された。
2)MOP28での合意事項(図5)
図5:MOP28での合意事項
3) エネルギー効率に対する取り組み
HFC削減過程におけるエネルギー効率に関する課題に向けたタスクフォースが設立され各国の専門家が集まって議論している。
4) COP21(2015年12月)からCOP24について
COP21“パリ協定”(ボトムアップメカニズム)の主な内容は次の通りである。
・長期的な温度上昇を2度と設定した。(1.5度を目標として追及する)
・すべての国が年ごとに目標を提出する。目標達成の義務はない。
・5年ごとに全体の実行状況を確認する。
・すべての国が実行状況を柔軟な方法で報告する。
・技術革新の重要性を位置付ける。
・市場原理のメカニズムを位置付ける(二国間クレジット含む)
COP24(2018年12月、ポーランドのカトウィツェルールで開催)では主目的としてパリ協定の実行について保障することを決議し、パリ協定作業プログラム(PAWP)を採用した。
5)国ごと、地域ごとの温室効果ガス(CO2)排出量
国ごとの温室効果ガスの排出量は中国が圧倒的な排出量である。日本は2016年は2013年に比して削減しているが絶対量が少ないため、影響度も小さい。
6) 主要国のCO2排出削減計画(図6)
赤文字が公式に表明している数値である。
図6:主要国のCO2排出削減計画
4.グローバルな取り組み
1) 今後の方向性(MOP等における検討課題)
代替冷媒の性能評価、安全性や冷媒管理も含め重要であり、安全性に関するASEAN諸国とのワークショップを開催し、日本の技術の普及に努めていく。
また、エネルギー効率との相関(energy efficiency)とどう取り組んでいくかが重要なポイントであり、途上国への適切な支援にも取り組んでいく。
2) 地域ごとの法規制概要(図7)
図7:地域ごとの法規制概要
3)グローバルな工業会活動<ICARHMA>
ICARHMA(冷凍空調工業会国際評議会)は11か国(10団体)で構成している。
4)具体的な活動内容
・GRMI(Global Refrigerant Management Initiative)
AHRIとABRAVAが主導し、冷媒管理という視点からの課題について対応する。
・RDL(Refrigerant Drivers License)
UNEPとAHRIにより主導し、据付作業者のトレーニングと資格に関するグローバ
ル基準を構築する。
・AHTTI(Air Conditioning Heating and Refrigeration Technology Institute)
AHRI、ASHRAEと米国政府が主導し、A2L、A3冷媒のリスクアセスメントを実行
する。
・IFP for HAT(International Expert Panel for HAT)
米国エネルギー省とオークリッジ国立研究所が主導し、ルームエアコンとルーフト
ップエアコンの代替冷媒ドロップインテストを行っている。
・PRAHA(Promoting low-GWP Refrigerants for Air-Conditioning Sectors In
High Ambient Countries)
UNEPとUNIDOが主導し、ルームエアコンや業務用エアコン等4種類の空調機器の
ドロップインテストを実施し、日冷工は第2stepとして”R32のリスクアセスメン
ト”に参画している。
・ASEANリスクアセスメントワークショップ(神戸シンポとリンク)
インドネシア、タイ、ベトナム、マレーシア、フィリピン及び日本が参画し、各国
における法規制、政策等将来の方向性について議論する。
5. 日本がとるべき戦略
1) 業界の位置付け(SWOT 分析)
日本の「強み」は技術力・高品質・グローバル生産体制であり、「弱み」は価格競争力・海外に対する技術の発信力である。また「機会」は強燃性冷媒のリスクアセス推進中・代替冷媒の規制緩和・途上国の支援要請である。一方、「脅威」は米国におけるリスクアセス体制強化・中国や欧州におけるA3冷媒導入加速の動きである。
2) 業界に期待される課題
(1)“革新的”技術開発の加速
COP会合でも課題として取り上げられており、現実的には非常に高いハードルであ
るが、中長期的には越えなければならない。
(2)高性能な“環境志向製品”の普及
普及加速のためのインセンティブを付与する。官民連携する。また、資源エネルギ
ー庁では先月エネルギー需給計画を発表した。
(3)途上国への支援強化拡大
日本の持っている技術が期待されている。二国間クレジットシステム等の活用も有
効であり政策への、より積極的な働きかけも重要な要素である。
3) 日冷工の活動計画(グローバル視点)
(1)国際舞台での活動強化(国際会議等)
UNEPにおける活動。OEWG(公開作業部会)やMOP会議での発言を強化して
いく。ICARHMA会合と連携し、また活用する。日中韓3か国(JRAIA、CRAA、
KRAIA)会合では各国の情報を共有、課題の共有を目的に持ち回りで 開催して
おり、連携していく。
(2)各地域ごとの戦略立案
地域ごとの個別の活動を強化する。ヨーロッパはEPEE、JBCE等との活動連携し、欧州事務所を核として情報共有、発信をする。米国、豪州はAHRI、AREMAと連携し、日本からの技術情報を発信する。アジアは国際標準や技術的な支援を強化する。中東や発展途上国(インド、ブラジル等)は技術的な支援や、連携が不可欠である。
設備用リスクアセスメントSWG, JRAIA 山本 昌由
一般社団法人日本冷凍空調工業会(以下、当工業会)で、微燃性冷媒を対物用途を主とした設備用エアコンに用いた場合の着火のリスクアセスを2015 年度から専門技術者らによって実施した内容について報告があった。
写真3:設備用リスクアセスメントSWG JRAIA 山本 昌由氏
1)リスクアセスメント方法
・CFD解析により漏えい冷媒の拡散・流動解析を行い、どのような設置環境で、どの
程度の可燃領域が形成されるのかを、可燃空間の大きさと存在時間を定量化。
・リスクアセスメントでは、FTAを用いて、それぞれの着火源の存在確率、漏えい
発生確率及び漏えい時の可燃空間の形成状態から着火確率を導く。
・1台あたりの年間事故発生頻度を計算する。
2)リスク評価の設置ケース
空調機は、床置形室内機(圧縮機非搭載)、床置形室内機(圧縮機搭載)、天吊形
室内機(圧縮機非搭載)の3パターンで、冷媒はR32を使用してそれぞれのケース
の可燃空間時空積、可燃域継続時間をCFDを実施して算出し、評価を実施した。
3)リスクアセスメントの結果と安全対策
室内機のリスクアセスメントとしては「輸送・保管時」「据付時」「使用時」「修
理時」「廃棄時」に区分し、それぞれの場合において着火原を想定し、リスク評価
を実施、対策と許容値範囲内であることを確認した。
4)評価結果
何も安全対策を行わない場合は、全ステージでリスク許容値以下とならなかっが、
使用時は、冷媒漏えいを検知する漏えい検知器の設置と、漏えいを検知した際に機
械換気することを安全対策とすることでリスクを許容値以下とすることがでた。据
付、使用、修理時は、携帯形漏えい検知器の携行および作業者への裸火及び燃焼機
器に関する教育を実施することで、リスクを許容値以下とすることができた。
講演4 低温暖化冷媒HFC-32採用のマルチエアコン『GREENマルチ』&『HEXAGON FORCE32』モジュールチラー
ダイキン工業株式会社 空調営業本部 水野 雅士
大型空調機の低GWP冷媒転換・省エネ化の社会的要請の高まりから、HFC-32を採用したビル用マルチとモジュールチラーの製品紹介があった。
写真3:ダイキン工業株式会社 空調営業本部 水野 雅士氏
■『GREENマルチ』マルチエアコン
1)商品の特徴
・扁平多穴管の採用で空気抵抗を低減して、同一面積当たりの熱交換効率を従来比
1.3倍に向上した熱交換機の採用。
・インジェクション回路に、電動弁と熱交換器を配置しバイパス循環量を冷凍効果に
変換してロスなく圧縮機を冷却する、R32を使いこなす新型スクロール圧縮機の
搭載。
図8:『GREENマルチ』マルチエアコン
2)省エネ性
従来型R410A機と比較して、冷媒R32の高効率性と省エネ技術で約13%省エ
ネ、冷暖平均COPは、約16%向上。
■『HEXAGON FORCE32』モジュールチラー
1)商品の特徴
R32採用による基本性能向上と新型モジュールコントローラによるシステム制御
で、省エネを実現。
(1)地球温暖化への影響を従来機比70%削減。
(2)業界トップクラスの冷却期間成績係数IPLVでCO2排出量を削減し環境負荷
低減。
(3)従来機に比べ、加熱性能が約5~10%向上。加熱COPにおいても業界トップ
クラスを達成。
(4)実運用時の省エネ性の向上に配慮した技術を搭載。
図9:『HEXAGON FORCE32』モジュールチラー
2)高機能モジュールコントローラ
台数制御に加え、変流量制御やタッチパネル接続が可能で、JIZAI、ヘキサゴンモ
ジュールチラーそれぞれの特性を生かした専用設計したコントローラで様々な運転
パターンに対応。
■まとめ(低GWP冷媒製品の今後の展望)
・地球温暖化係数は、R32を使用することでGWP値約68%低減可能である。
・使用冷媒量を低減することで70%以上の低減を達成した。
・漏れ量の抑制、回収・再生の推進など総合的な対策を行うことで、キガリ改正の削
減目標を達成可能となる。
・今後も温暖化係数GWPが低く、省エネルギー性の高い冷媒の開発・採用、使用冷
媒の低減の技術開発が必要である。
・地球環境を第一に考えると大型空調機において、早急に低温暖化冷媒の転換を実施
していく必要がある。
以上
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