去る2月13日、ダイキン工業株式会社 東京支社会議室にて、当工業会主催の講演会を開催したので、その概要を報告する。今回は「冷凍空調分野における最新動向
平成30年度省エネ大賞
経済産業大臣賞受賞
三菱重工サーマルシステムズ株式会社
No.663 2019年5月
三菱重工サーマルシステムズ株式会社
受賞時の様子
1.製品開発の背景
工場や地域冷暖房施設などの大規模な冷熱供給施設の熱源機として使用されるターボ冷凍機は、過去10年間に国内に設置されたターボ冷凍機の消費電力はピーク時原発2基分に当たる200万kWに及び、非常に大きなエネルギー消費のポテンシャルを有している。また、京都議定書の採択以降、地球温暖化防止について注目されており、パリ協定の採択やキガリ改正が行われたことにより低GWP(Global Warming Potential)冷媒への必要性が高まっている。そこで、当社はお客様のニーズであるエネルギー消費量の削減、低GWP冷媒の採用、リプレースできるコンパクト設計に応えるべく新しいターボ冷凍機「ETI-Zシリーズ」の開発を行った。
2.製品の概要
ETI-Zシリーズの冷媒にはHFO-1233zd(E)を選択した。HFO-1233zd(E)の特徴としては地球温暖化係数が1と非常に小さいこと、安全性がA1分類で不燃かつ低毒性であること、発泡剤などの別用途があり入手コストが安いこと、空調用途での常用圧力が0.2MPa(G)より低く高圧ガス保安法の対象外であることなどが挙げられる。
一方で、ガス比体積は従来冷媒であるHFC-134aと比較して約5倍であり、冷媒ガス流路の容積を極力抑える設計が大きな課題であった。そこで、HFO-1233zd(E)を適用し、なおかつ機器外形寸法を従来冷媒HFC-134aを使用した冷凍機と同等維持とするために以下の技術を適用した。
(1)小型・高性能を両立した遠心圧縮機
圧縮機の小型化と高性能化を両立するために大風量羽根車と圧縮機・電動機の直結構造を採用した。大風量羽根車の採用により、従来の羽根車と比較して同一径で60%の体積風量を増加させるとともに、最新の空力設計技術を用いて羽根車形状や入口ガイドベーンの形状を最適化することで従来と同等の効率を確保することに成功した。また、冷媒物性として同一容量でも圧縮機回転数を低くできることを活かし、圧縮機・電動機の直結構造を採用することで、小型化や機械損失低減を図った。これらの工夫により圧縮機の容積を従来機比で約50%の増加にとどめた。
(2)従来の高効率を維持した熱交換器
シェル&チューブ型熱交換器である蒸発器と凝縮器は伝熱管の管群配置やシェル寸法などの最適化を行った。蒸発器は局所的な高ボイド率域、液柱存在領域、高流速域を低減し、圧力損失による温度ロス増加やドライアウトによる性能低下、圧縮機への液滴飛散を回避した。凝縮器は局所的な高流速域を低減し、圧力損失による温度ロス増加を回避した。以上の設計により、蒸発器・凝縮器ともに従来機比で約11%の容積増加に留めた。
(3)設置性に優れたコンパクト設計
ETI-Zシリーズはコンパクト化のために円筒シェル状の凝縮器シェル下部に潤滑油ユニット・中間冷却器を配置し、インバータも冷凍機本体に搭載した一体型とした(図1)。各構成要素のコンパクト設計と構成要素配置の工夫により、HFC-134aを用いた従来機とほぼ同等(105%以下)の設置面積となっている。
図1 機器外観
3.省エネルギー効果
ETI-Zシリーズの定格COPは6.3、部分負荷時の最高COPは25.5、JIS規格のIPLVは9.1と非常に高性能なターボ冷凍機となっている。最大冷房負荷が250USRtの宿泊施設を想定し(表1)、リプレース対象となる約20年前の機種ARTシリーズとのエネルギー消費量の比較をすると、電力消費量とCO2排出量ともに約60%の低減が可能である。各月のエネルギー消費量を比較すると、冷却水温度が低下する冬季でのエネルギー消費量低減が顕著であり(図2)、これはインバータ駆動化による効率改善効果が大きいためである。
表1 省エネシミュレーション計算条件
図2 省エネルギー効果
4.終わりに
ターボ冷凍機市場でニーズが高まっている低GWP冷媒を使用し、新規導入案件だけでなくコンパクトで既設冷凍機の更新提案に適用可能なターボ冷凍機「ETI-Zシリーズ」を開発した。
当社はターボ冷凍機での多くの実績と、グループ会社で多種多様な最先端製品を開発している強みを生かし、今後も市場のニーズに合わせてお客様の満足が得られる商品を提供していく所存である。
以上
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