海外短信クローズアップ

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No.664 2019年7月

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人口知能(AI)を活用し始めた冷凍空調機器 
“スマートシステムは故障を予知し、快適性を向上し、エネルギー消費を低減する”


人口知能(AI)は、冷凍空調産業に関する限り、既に機器のメンテナンス、快適性の向上、さらにはエネルギーの節約などに使われ始めている。例えば、あるAIを利用したシステムでは、故障を予知するモデルを用いて、機器が運転休止するまえに設備業者は修理することができる。ほかのシステムでは、外気と室内の状況をモニターおよび分析して、これまでに集められたデータをもとに常に機器を調節している。これにより居住者の快適性が高まるだけでなく、ビルのオーナーにとってもエネルギー代を節約することができる。


マシーン・ツー・マシーン(M2M:機械間通信)ラーニングを活用したインテリジェント・システムは消費エネルギーの低減や故障修理についてビルのオーナーや技術者に効果的な助言をすることができる(写真:ダイキン・アプライド)


■既に使用されているAI
「冷凍空調産業にとってAIは有益なものである。以前なら人手を要していた作業や困難であった作業を空調機は自動的にやっている。例えば我々の3D i-See センサーはAIを使用して室内の居住者を検知し自動的に吹き出し温度と風向を調節して快適性を保ち、エネルギー効率も高めている」と三菱電機トレーンのマーケティング役員のミシェル・ロブ氏は述べている。

AIを組み込むことにより機器の故障を予測して運転休止期間を減らすことができる。エマーソンはスーパーマーケットの冷凍システムで冷媒の漏えいを検知するためにAIを活用している。

ダイキンはM2Mラーニングがどのようにして、冷凍空調機器の性能向上、エネルギー使用量の低減、室内空気質の改善について、技術者、設備業者、およびビル設備管理者の役に立つのかに関心を持っている。


■AIは始まったばかりだ
AIのコンセプトが提示されたのは1950年代にまでさかのぼる。しかし我々の日常生活に登場したのは最近のことだ。技術開発が進んだことによっている。「業務用ビルでは、ビルのオーナーがエネルギーの消費量や料金、居住者の快適性、さらにビルの中における空気質の改善について関心を高めるほど、M2Mラーニングが力を発揮してくる」とダイキン・アプライド インテリジェント・ソリューションのプロダクト・リーダーであるマイク・ホップ氏は述べている。「M2Mラーニングを使用したインテリジェント・コントロールは、効果的にビルのオーナーや技術者に対して、エネルギー消費量の節減、機器修理の軽減、および機器の破損に対する保険料の低減などについての助言をすることができる」という。

AIは大量のデータ量と多数のシナリオを分析する必要がある。このため冷凍空調産業における最初の成果は企業レベルや広いシステム・レベルでの最適化となる。個々の機器やセンサーに焦点を当てたものは限られたものになるだろうとジョンソン・コントロール デジタル・ソリューションのスーディ・シンハ副社長は述べている。

AIが広範囲に使用されてくると、データ処理の大部分はコントローラなど機器のレベルで行われるようになるとエマーソンのイノベーション役員であるジョン・ワルス氏はいう。機器のコントローラとクラウド・ベースのサービスとの連携が強まってくる。マシン・ラーニングを利用した機器のメンテナンス・モデルを作るためには、機器の故障や問題点についての情報と共に、機器の動作(圧縮機やファンの状況、外気温度など)などについての歴史的なデータが必要になってくるとワルス氏はいう。


■AIに対する期待
「快適性、エネルギー消費量、機器寿命、およびメンテナンスなどはすべてAIの恩恵を受ける分野だ。しかし重要なのは解決を必要としている問題を正しく理解することとそれを解決するために適したツールを使うことだ」とワラス氏はいう。「他の新しいツールや技術と同様に、コストが増加する場合は、使用の正当性や投資効率の分析が必要になってくる。機器の製造業者やサービス企業は、オーナーや管理者にコストの増加を理解してもらうために適切なデータを示す必要がある」

「AIには非現実的な期待を抱かせる危険もあるが、業務用や住宅用の空調機で既に多くのAIを活用した例が存在する」とロブ氏はいう。「ある分野では、AIに伴う変化はすぐに革命的なものとなるように思える。一方で、変化は新味のないものであることもある。差引したとしてもAIは今後より精緻で巧妙なものとなっていくだろう」

現時点では冷凍空調産業にとってAIは出現したてのものであり、ほとんどのビルでこの技術が十分に活用されるにはまだ数年かかるとホップ氏は言う。「AIがビルと空調機に深く活用される可能性を我々は理解し始めたばかりである。コントロールや冷凍空調産業にとって、M2Mラーニングの最大の恩恵は何なのか、まだはっきり分かっていない。しかし我々はAIが提供してくれる重要な価値というものを理解し始めているところだ」

〔出典:Air Conditioning, Heating and Refrigeration
News February 25, 2019〕