2019年6月7日、東京マリオットホテルにおいて、第8回通常総会および70周年式典を開催しました。70周年式典にあたり、高木会長からの式辞および、経済
川崎市のESCO事業(麻生スポーツセンター)事例を取材しました
No.664 2019年7月
川崎市のESCO事業(麻生スポーツセンター)採用事例を取材しました。■前回(2018年10月 八ッ場ダム)の取材記事はこちら
■2018年(3月 ICカード製造工場)の取材記事はこちら
■2017年(12月 横浜フレッシュセンター)の取材記事はこちら
2019年5月15日、川崎市財政局及び麻生区役所のご厚意により、当広報委員会は神奈川県川崎市麻生区の麻生スポーツセンターにおいて、ESCO事業の最新の設備を取材させていただきました。川崎市が2017年度にESCO事業者提案の公募選定を行い、2018年度にESCO事業者による改修工事等サービスが行われ、2019年4月から省エネルギーサービスが開始されているものです。
ESCO事業とは、Energy Service Companyの略称であり、ESCO事業者が建物等の省エネルギーに関する包括的なサービスを提供し、今までの環境を低下させることなく省エネルギー化を行い、その結果、得られる省エネルギー効果を保証するものです。
図1.ESCO事業概要
(川崎市資料より、ギャランティード・セイビングス契約のイメージ)
川崎市では2014年3月に「かわさき資産マネジメントカルテ」を策定し、かねてから「予防保全(計画的に適切な保全を行う)」による施設の長寿命化に取り組んでおられます。多くの川崎市公共施設では、機能や性能の劣化の有無や兆候・状態を把握の上、計画的な保全により機能停止等を未然に防いでいます。一方、民間のノウハウ、技術的能力を活用することによって、機器更新による建物の長寿命化とあわせて、省エネルギー化による光熱水費の効果的な削減及び温室効果ガスの低減が期待できるESCO事業は、今後も適宜活用して行きたい、とのことです。
麻生スポーツセンターでは、これまでは設備機器の故障発生の都度、修理を行っていましたが、竣工後30年以上を経て、多くの設備機器が老朽化による更新時期を迎えていたため、ESCO事業が適切に活用できる案件であったと伺いました。
麻生スポーツセンターは、川崎市スポーツセンター条例等により各行政区が管理運営している施設の1つで、大・小体育室、第一・第二武道室、トレーニング室、子供体育室、研修室で構成され、2017年度で年間の利用者数が約30万人近く、室の稼働率も90%以上の人気施設です。施設の利用は麻生区民に限らず、周辺住民も利用できるとのことでした。スポーツセンター主催の独自行事も数多く提供しており、定員以上の申し込みのある定期教室・行事もあるとのこと。取材に伺った当日も、多くの市民の皆様が利用・健康増進に努められており、私共広報委員会の見知らぬ取材メンバーにも、利用市民の皆様から、明るいご挨拶をいただきました。
写真1.麻生スポーツセンターとエントランス内行事表
今回のESCO事業公募においては、複数事業者の提案内容を公正に評価・審査の結果、東芝エレベータ株式会社・株式会社光陽電業社グループが最優秀提案者に選定されました。川崎市にとって、本事業は環境負荷低減の観点から、環境省の「平成30年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(地方公共団体カーボン・マネジメント強化事業)」も活用できた、とのことです。
図2.報道発表資料(最優秀提案者を選定しました!!)
(川崎市一般ホームぺージより)
本事業の省エネルギー手法は、空調システムの更新と館内照明のLED化更新が主要施策となります。
空調システムはセントラル空調と個別空調の併用方式になっており、既設の空調システムのセントラル空調エリアは、更にガス吸収式冷温水機を熱源機とするエリアと温水ヒーターを熱源とするエリアに分かれていましたが、更新後の空調システムではエリアを一つに統合し、高COPタイプの電気式空冷ヒートポンプチラーに更新しました。また、セントラル空調エリアのうち、使用時間の異なるエリアを個別空調システムに変更し、空調対象空間のCO2濃度制御、中央監視によるデマンド制御等を導入することにより、これらの高効率機器をきめ細かく運転制御しています。
設備更新により、設備の老朽化により劣化していた空調効果が改善され、また、これまで暖房のみであった小体育室・武道室の冷房が可能となったこと等で、利用者から高い評価を得ている、とのことです。
図3.ESCO事業導入前と導入後の空調システム比較
(川崎市から提供いただいた資料を広報委員会にて編集・簡略化)
冷温水配管等は既設設備を流用することで、空調配管系統の統合化等のシステム変更を行いましたが、更新費用も節約できたとのことです。屋上機器の設置スペースは、更新により省スペース化されたため、将来設備増強が必要となった場合も対応ができるはず、とのお話でした。
写真2.新しくなった空調システム
館内照明のLED化については、照明器具本体ごとLEDに更新することで信頼性の向上と合わせ、更に階段及びトイレエリアでは人感センサ付器具を導入、廊下照明は2系統の配線で通電器具の半減化対応など、きめ細かな節電が出来るようになっています。照明が明るくなったことで、館内の壁汚れが目立つようになり、壁の再塗装・補修等、思わぬ出費があった(笑)との後日談ですが、目に見えてきれいになった施設は、空調同様に利用者の高い評価を得ています。
【左:全館LED化により明るくなった室内】
【右:人感センサー付き階段室LED照明】
【左:2系統の電源回路で半減点灯状態の廊下LED照明】
【右:LED照明化に合わせ壁・天井もリニューアル】
写真3.全館LED照明になりました
ESCO事業者の公募にあたり、川崎市では麻生スポーツセンターの施設の課題を事前に整理した上で、事業者に提示していました。利用者からの要望が大きい未空調室への空調新設、シャワー設備・トイレ設備(洋式化)・衛生設備等の老朽化に伴う漏水、排水設備の詰まり等の大規模な点検と修繕検討等、多くの課題・改善検討項目がありましたが、今回のESCO事業者は、事業提案段階から、任意提案として、川崎市が示したスポーツセンターの施設課題を大きく考慮してくれたこと、地元の企業を使った工事提案をしてくれたことが選定の決め手になった、と川崎市側から説明をいただきました。
空調機・空調システムの更新、大体育室を除く全館LED照明化、給排水設備の節水型更新・漏水調査&補修等、多くの環境負荷・光熱水費の低減を図った結果、事業提案段階でのCO2排出削減率は約50%(=48.4%/年)と、大幅なエネルギー削減効果提案値となっています。うち空調用エネルギーのCO2換算削減率は、22%とのことで、これは小体育室、武道室の冷房導入も含まれた値です。また、空調の効きが良くなったので酷暑の夏も安心できる等、施設の指定管理者からも嬉しい発言がありました。
ESCO事業者による省エネルギーサービス期間は、2019年4月以降の3年間ですが、設備導入者側の課題は、事業提案値通りの光熱水費の削減額(CO2排出削減率)が実現できるか、サービス期間内及び終了後もエネルギー削減に効果がある設備運用・保全面のアドバイス等で、ESCO事業者が設備導入者側と十分な関わりを継続してもらえるか等が挙げられます。これらについては、2018年11月以降の綿密なモニタリングテストを通じ、2019年4月以降のCO2換算エネルギー削減率は、事業提案値上の想定値を上回る実績を上げており、設備導入者側が懸念する削減率不足の心配はなさそう、とのことでした。
その他、ガス吸収式冷温水機を電気式空冷ヒートポンプチラーに更新したことで、冷房・暖房の運転切り替えは、更新前は機器メーカーによる1日作業が必要でしたが、更新後の機器は麻生スポーツセンターの指定管理者で簡単に切り替えられるメリットは大きい等、今回も導入者側の生の声を、多く聴くことができました。空調機器・空調システムの最新機器への更新は、省エネルギー効果量が大きく、設備機器の維持・保全も容易になることを、今後も様々な取材を通じ、WEBマガジンで紹介してまいります。これらの事例紹介が、省エネルギー機器の選定・普及の一助となれば、幸いです。
記事文面を通じ、多忙な中、取材を受け入れていただいた川崎市財政局、麻生区役所、麻生スポーツセンターの関係者様に、改めて心より御礼を申し上げます。ありがとうございました。
写真4.取材を終えた広報委員会メンバー
以上
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