2019年7月1日に工業標準化法から産業標準化法に変わりました。 近年、IoTやAIなど情報技術の革新が進み、企業の競争力は、データやその活用に移りつ?
雫石プリンスホテル 施設見学
No.666 2019年11月
10月15日に実施しました「雫石プリンスの施設見学」について広報委員会よりご報告いたします。番外編はこちらから■前回 2019年7月 麻生スポーツセンターの取材記事はこちら
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写真 1:ホテル客室から見た朝日と雲海
株式会社プリンスホテル様雫石プリンスホテル(以下、雫石プリンスホテル様)は、岩手県雫石町高倉温泉という好立地に建てられたリゾートホテルです。1980 年に雫石スキー場、1984 年にゴルフ場が敷地内に開業されたのち、1990 年にホテルが開業されました。本スキー場は皇室をお招きしたり、世界選手権を開催したことがあるなど、伝統のあるリゾート地です。
冬は最低外気温度が-15℃に達し、積雪量も 2m を優に超えることが珍しくないそうで、上質なパウダースノーでスキーには最適な地である半面、冬場の暖房や除雪・防雪には非常に厳しい環境ともいえます。
そのような従来型のヒートポンプに過酷な環境での暖房用に選ばれたのが、寒冷地対応大型空冷ヒートポンプチラー「ヒートエッジ[HEATEDGE]」(以下、本システム)です。
2017 年春より雫石プリンスホテル様に正式採用いただいた本システムの取材に広報委員会で訪問させていただきました。
1.はじめに
それではシステムの概要をご説明いたします。
従来、ボイラー(灯油)によってまかなっていたホテルの暖房ですが、現在は東北電力株式会社様(以下、東北電力様)と共同開発された本システムとボイラーシステムとのハイブリッド方式でまかなっています。
雫石プリンスホテル様によれば、冬場の暖房を化石燃料(灯油)から電気に切り替えるチャレンジの決断をされたのは、リゾート開発と自然環境の維持を社会的責任として両立させたい、ひいてはそれがトータルエネルギーコスト低減に繋がるとの思いだったとのことです。
この難しい課題に応えるため、2015 年 12 月より東北電力様と当工業会会員企業である東芝キヤリア株式会社(以下、東芝キヤリア)との共同開発によるフィールド試験がはじまりました。
取材当日は天気に恵まれ、絶好の晴天。抜けるような蒼空に、今回も広報委員会のメンバーに晴れ男・晴れ女がいることを実感しつつ、雫石プリンスホテル様に到着しました。
写真 2:ホテル 外観
驚いたのはその敷地の大きさです。雪の無いスキー場は大草原の佇まいながら、ゴルフ場の芝生と相まって、敷地の広大さ、ホテルを中央にした一大リゾート地としての一体感を実感します。岩手山を筆頭とする雄大な山々、その自然を背景にした雫石プリンスホテル様は地域のランドマークとしての役割も担っていることを感じます。
普段は東京のオフィスに内勤し、単調な日々を送る身にとっては、その規模というかサイズ感を、少し歩き拝見しただけで実感する広大さでした。
委員一行ははじめに本システムの設置現場を拝見したのち、ご担当者様のお話をお聞きできました。ご担当者様のお話では、「環境活動への積極的な取り組み」、「省エネへの取り組み」、「電力負荷の平準化」、「燃焼式熱源機の老朽化」等の課題を抱えていたところ、東北電力様から電気式でのリニューアル提案を受け、設備更新を実施されたとのことでした。
燃焼式であるボイラーは、ヒートポンプシステムでは必要としない保守点検・メンテナンス等にもコストがかかります。その削減にも同時に取り組めるのがヒートポンプシステムのメリットでした。
さらに設備更新前は、ボイラー燃焼熱利用の吸収式冷凍機を運用していたため、シーズンの変わり目にメンテナンスを兼ねた冷暖房の切り替え作業が必要で、また、配管側のバルブの切り替え作業には数人がかりで半日を要するほどの手間を要していたそうですが、この作業が不要になったことで非常に効率的になったとのご評価をいただきました。
フィールド試験は、既存のボイラーシステムとのハイブリッド方式で二年間実施。
60 万から 70 万 L の灯油を使用していた冬場の暖房で、約 20 万 L 節約でき、ランニングコストやイニシャルコストの削減のみならず、CO2 排出量の削減も図れ、ご満足いただけた結果、2017 年に正式採用いただきました。
図:エネルギー総量の推移等
写真 3:客室
写真 4:岩手山と雫石ゴルフ場の雄大な景観を一望
本システムから各部屋に送られた温水は、設置されているファンコイルユニットを介して温風として暖房に使用されています。
冬場の室内の温度はこの暖房システムによって常時 23℃以上を保つよう制御され、建物躯体や窓ガラスの断熱とあわせて、わずかでもお客様に寒さを感じていただくことがないよう、温度管理が徹底されています。
本来は山側(スキー場側)を背に建てる予定だったホテルを、当時の社長のご意見を取り入れ、客室の向き(窓)を岩手山に向けて建てられたそうです。そのお蔭でお客様は岩手山の雄大な光景をいつでも好きな時にみることができるわけです。
2.防災センターおよびヒートポンプシステム据付現場
暖房温度を一括で集中管理する防災センターを見せていただきました。
モニター操作画面では、設定温度や現在温度、警報温度、運転の有無が一元管理され、監視カメラの映像と併せて、何か問題があっても 365 日・24 時間体制で対処できる体制がとられています。
写真 5:モニター操作画面
ホテル南側のスペースを活用し、5つのモジュールユニットを連結した本システムが設置されています。ヒートポンプ(電気式)の課題の一つである「デフロスト(除霜)」ですが、霜取り中はどうしても暖房能力が低下するため、ボイラーとの併用運転のみならず、ヒートポンプシステム単体での能力向上が欠かせません。
本システムでは、湿度センサーの内蔵、新開発圧縮機による加熱能力の向上、1モジュールユニット内の4つの独立した冷凍サイクルを連携させて運転、複数の冷凍サイクルを同時にデフロストさせない、など専用のチューニングにより、デフロスト中も暖房能力の低下を防いでいます。合わせて、効率的なデフロストを実現することで暖房能力の向上に貢献しています。
写真 6:暖房能力を大幅に強化しているヒートエッジ
寒冷・豪雪地域ならではの苦労話ですが、雪や着霜への対策をあげられていました。ボイラーは燃焼し熱を発生するので、自身の周りに積もった多少の雪なら溶かしてしまうことも可能です。しかし、大量に降り積もるパウダースノーはスキーヤーなら大歓迎なのですが、ヒートポンプシステムにとっては大敵です。
除雪については、こればかりは熱交換器に接触する雪を人力で取り除くしかないのですが、防雪は、例えば降雪時には運転停止中のユニットも空冷用ファンを強制的に運転させたり、熱交換器にフードをかぶせることで、ある程度は防ぐことができるということでした。
どちらかというと熱交換機の着霜対策の方が大変で、これは何も対策せず放っておくと最悪、全ユニットが停止する可能性すらある厄介なものです。そのため東芝キヤリアは新たに「相対湿度センサー」を開発し、機器本体に内蔵することで、最適な除霜タイミングを検知する仕組みを取り入れて対応しています。
また、温泉の湧く土地柄ということで、素人目には熱交換器の腐食の有無が気になったのですが、温泉自体は自噴していないため、温泉ガス(硫化ガスなど)の心配はないとのことでした。
3.番外編
以下は、雫石プリンスホテル様アクティビティのご紹介となります。
☆雫石ゴルフ場☆
写真 7:趣を異にした二つのコース戦略性を
楽しめる風光明媚なゴルフコース
実は何を隠そう、わたしはゴルフを嗜んでおりません。
しかし、その素人が見てもコースの隅々にまで手の行き届いていることが感じられる色鮮やかな芝生が素晴らしく感じられました。
ゴルフを趣味とされる皆様にはぜひ一度当地に来られ、コースを周られることをお薦めします。
☆雫石スキー場☆
写真 8:雪景色のゲレンデ
※【雫石プリンスホテルより提供】
過去には皇族の方が訪れ、アルペンスキーの世界選手権も開催されたという由緒正しいスキー場。北東北屈指のスノーリゾートということです。
初心者や子供たちでも楽しめるファミリーゲレンデをはじめ、中級者、上級者でも楽しめるサンシャインコース、ジョイフルコースなど、全部で 11 もの!コースがあります。
まだ雪には少々早い季節でしたので、雪景色こそ見られませんでしたが、特別にロープウェーに乗せていただき、眼前に広がる小岩井農場をはじめとする雄大な風景を見ることができて、感動ひとしおでした。ここからみる雪景色の眺望はいかほどか。
ぜひ一度、冬に訪れたいですね。
写真 9:スキー場からみるロープウェー
☆ナイトロープウェーで行く星空観察ツアー☆
写真 10:ナイトツアーパンフ
※【雫石プリンスホテルより提供】
こちらのツアーは雫石銀河ロープウェーの乗車券がセットになった宿泊プランで、ぜひ参加させていただきたかったのですが、季節的に休止中。
大変残念でしたが、ホテルの庭からも引けを取らない星空を拝見することができました。
満天の星はまさに絶景!!
夜でも明るい東京の夜空では普段決して見ることはできない、そんな感動的な光景が目の前に広がり、素晴らしい体験でした。
☆雫石高倉温泉☆
写真 11:屋根付きの温泉露天風呂
※【雫石プリンスホテルより提供】
温泉に接している錦鯉の泳ぐ池が目も心も楽しませてくれます。入浴したまま池の水面に触れることができますので、指先で小さく水面を揺らすと錦鯉が集まってきます。
こちらはナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉を成分とする源泉かけ流しの天然温泉です。宿泊客でなくても利用でき、地域住民の憩いの場所ともなっています。
主な効能は、神経痛・筋肉痛・関節痛・運動麻痺・慢性消化器病・疲労回復に効くとされており、入浴させていただいたのですが、なんと翌朝の疲労感(とくに足)が軽減されました(実感)。
☆レストラン☆
写真 12:プリンスルーム(朝食・夕食のブッフェ会場)
※【雫石プリンスホテル公式サイトより】
夕食はフランス料理こぶしのコース料理とブッフェスタイルがあり、当日は、ブッフェを選びました。「明日の昼食に食べる“わんこそば”分の胃袋を開けておかないといけないなー」などと考えながら夕食に臨んだのですが、見た目もさることながらその美味しそうな香りに「わんこ」のことはすっかり忘れて腹いっぱいに舌鼓を打たせていただきました。
和食から洋食まで約 40 種類ものメニューに迎えられ、お酒は地場の日本酒を堪能させていただきました。「ボイル蟹」と「ローストビーフ」は絶品でした。
ごちそうさま!
写真 13:三回目のお代わり
写真 14:日本酒のきき酒セット
4.所感
見学の時期が秋ということもあり、美しい自然を贅沢とも思えるほど拝見させていただきました。今回の見学で、お客様が求められる「省エネ性」と「環境活動への取り組み」の両立にヒートポンプ技術が大きく貢献できていることを実感し、今後も工業会の活動を通じて、その一助となれればと考えています。ありがとうございました。
以上
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