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「私の海外駐在記 ー インドネシア 後編」 パナソニック株式会社 菅沼一郎
No.668 2020年3月
今回の海外駐在記は、パナソニック株式会社・アプライアンス社QAFL 事業推進室、菅沼一郎氏の駐在体験(後編)をお届けします。インドネシアでの駐在記を2号にわたり掲載いたします。前編はこちらから
過去記事はこちらから
■ドイツ駐在記(パナソニック 小林様)
■インド駐在記(日冷工 波多野)
■中国駐在記(日冷工 大井手)
■ブラジル駐在記 (日立JC 佐々木様)
■台湾駐在記(荏原冷熱 勇様)
■中国・マレーシア駐在記(日冷工 長野)
■ロンドン駐在記(日冷工 笠原)
■ノルウェー駐在記(日冷工 坪田)
7) いつも突然
ジャカルタというと、その慢性的な交通渋滞と、“ゴムの時間” (Jam Karet:ジャムカレッ)と通称があるほど、時間に遅れることが当たり前な国民性のイメージを皆さん持たれているのではないでしょうか。
私の都合17年に及ぶ駐在経験では、これにもう一つ「いつも突然」が入ります。
2009年4月30日社外で仕事をしていた私の携帯電話に会社から連絡が入りました。「大統領府から連絡あって、明日のメーデー、ユドヨノ大統領(当時)と6人の閣僚が会社に来るそうです。」私は思わず「今日は4月30日、エイプリルフールは既に終わっている!」と叫んでしまいました。それから会社に帰って、その話が本当であることを確かめて愕然とし、その日は、徹夜で工場外壁のペンキを塗り直したり、会場を設営したり、知り合いの自動車メーカーさんから、工場見学時に乗って頂くゴルフカートを借りたりして、何とか乗り切りました。その後もジョコ・ジャカルタ特別州知事(現大統領)のご訪問など、いつも突然に起こるのです。セキュリティの問題等あろうかとは思いますし、普段から準備を怠らなければ問題ないでしょう、といった声も聞こえてくるのですが、流石にその時々で会社にも事情があり、正直こうしたサプライズには常々閉口したものです。
写真1:ユドヨノ大統領(当時)による工場見学
写真2:ジョコ・ジャカルタ特別州知事
(現 大統領) ご来訪
8) Employees First
海外で長く仕事をしていると、どうしても日常に埋没し、「お国の人・もの・土地を使わせていただいて商売させていただいている」という意識が希薄になってしまいます。私たちはあくまでも外国人労働者であり、主役は現地の人たちです。ですから、研修を開催したり、従業員の能力向上、日本研修など経験を磨いて生産性の向上と更なるステップアップを目指してもらうのも当然のことです。
それにもまして、私が最も大事だなと思っていたのは、従業員とその家族に、「自分が、あるいは、私のお父さん、お母さんが働いている会社は良い会社だ」と“誇り”を持ってもらえることです。そのためにはまず、経営を安定させることは言うまでもありませんが、その上で、奨学金を出したり、未来を担う子供たちに工場見学をしてもらったり、子供たちの活動を主催、後援したりすることも大変大事に思いました。そして普通のことですが、社員や社員のご子息等の結婚式に呼ばれれば、出来る限り参加して直接「おめでとう」の言葉をかけ、一緒に写真を撮るようにしました。こうした些細なことが大変重要であったように今でも思っています。
写真3:学生への奨学金支援
写真4:小学校フィルム制作全国大会
特に私のいたような歴史の長い会社では、どうしても昨今の厳しい競争環境下ではコスト重視になりがちです。だからこそ、風通しの良い、透明性のある経営で、従業員のことを第一に考えることが重要なのです。毎年スポーツ大会を開催したり、家族も含めFamily Day(遠足)を行うなど、私達は仲間なのだ、良い会社に勤めているのだ、と感じてもらうことが最後まで重要でした。
写真5:社内マラソン大会
写真6:社員ご子息の結婚式へ出席
9) 変わりゆくジャカルタ・変わらない地方
首都ジャカルタのあるジャワ島は、国土全体の7%、人口の50%、経済の70%を占めています。中でもジャカルタはインドネシアの全ての中心です。特にこのところの開発の勢いは、スラバヤ以下、他の都市の遠く及ばないところです。
高層ビルの計画は枚挙に暇がなく、次から次へと新規プロジェクトの話が聞かれます。
10年ほど前の一過性の過度の建設ブームは過ぎたものの、まだまだ矢継ぎ早に開発案件があるようです。ここで気になるのは、2014年に就任した現ジョコ大統領が政策に掲げる地方の開発加速が一向に実現されていない現状です。目まぐるしく景色が変化するジャカルタに比べ、地方の経済発展スピードは、なかなか上がっていないのではないでしょうか。
現政権は今年、2024年までに首都をジャカルタから、カリマンタン島(旧ボルネオ島)東部に移転すると正式発表しました。果たしてこれが起爆剤となって、発展の波を地方に波及させることが出来るでしょうか?元駐在員としても本当に気になるところです。
10)未来へ
2018年は、ジャカルタ(パレンバン共催)で56年ぶりに第18回アジア大会が開催され、2019年3月には、国内初の地下鉄がジャカルタで開通しました。ジャカルタ‐バンドンの新幹線が暗礁に乗り上げている中、地下鉄事業に関わった日本企業が、計画通りに開通させたことは、やはり誰の目にも日本は流石と映ったのではないでしょうか?同地下鉄は、きっちり10分間隔で運行されていますし、各車両に治安と規律を守る警備員が常時乗車しています。また、各車両には、ピクトマークで12個の禁止事項が表示されています。
写真7:地下鉄の治安を守る警備員
1.地面座り込み禁止
2.ゴミのポイ捨て、つばはき禁止
3.車内での飲食禁止
4.ドアへの寄りかかり禁止
5.物売り禁止
6.物乞い禁止
7.落書き禁止
8.禁煙
9.武器・刃物の持ち込み禁止
10.ペットの持ち込み禁止
11.燃えるもの、爆発物の持ち込み禁止
12.匂うもの・危険物の持ち込み禁止
新設であることを差し引いても、お国柄が垣間見られつつ、美化に対する関係者の並々ならぬ決意を感じます。また、地下鉄の上を走るスディルマン通りも、今回大幅に整備され、場所によっては、左右幅10メートルはあろうかという歩道が設置され、しかも大変きれいに保たれています。以前のどこでも何でも、ごみ捨て自由な風潮(文化とまでは言わなくても)がなくなったことに驚いているのは私だけでしょうか?
1986年当時、インドネシア大学経済学部の聴講生として、ギナンジャール教授の開発5か年計画授業で聞いていた時、教授が「先進国に追いつくのは、大変難しく、実現には多くの困難を克服しなければならない。」と仰っていたことを最近よく思い出します。当時よく日本で耳にした「未来の巨大市場」インドネシアは、今のところ残念ながら依然として「“未来”の巨大市場」のようです。一方で、現政権は「2045年の先進国入り」を公に掲げています。数多くの友人をインドネシアに持つ私も是非そうなって欲しいと願っています。
以上
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