今回の海外駐在記は、当工業会 国際部 大井手参事の中国駐在体験(前編)をお届けします。2号にわたり掲載いたします。後編はこちら 過去記事はこちらから■
海外短信クローズアップ
No.669 2020年5月
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新型コロナウイルスによる中国の冷凍空調産業が抱えるリスク
この数か月間に新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大した。中国での流行病はバタフライ効果として多くの国の経済に影響を与えた。世界の産業チェーンにどのような影響が出ているのであろうか。この質問に答えるために、JARNは中国の冷凍空調と部品の主だった企業に質問状を送り調査をおこなった。その回答を分析し、課題の抽出を次のようにおこなった。
■生産の再開と能力の回復
新型コロナウイルスの拡大を防ぐため、中国の空調機産業の上流および下流のサプライチェーン企業は、2月の初め、完全な閉鎖状態にあった。そして当初予定したような日程での業務の再開はできなかった。
マスクを付けて生産を再開する作業者
■有害な感染の余波
マンパワー
現在、生産はフル稼働できていない。すべての作業者が仕事場に復帰することはできなかった。移動制限や感染予防のための要求を満たすことができないからだ。3月6日時点で作業者の70~90%は職場に復帰した。しかし生産が前年並みのレベルまで戻るにはまだしばらく時間がかかる模様だ。
材料と部品
中国の空調機産業の上流工程が円滑に機能していない。ここが空調機メーカーにとって最もコントロールできない隘路になっている。小規模の上流サプライヤーにとって、生産再開のための要求事項を満たすのは難しい。感染防止のための内部責任体制と緊急プランの確立、またマスク、体温計、消毒剤、その他の感染予防材料の購入などだ。大きな財政負担であり、通常の作業コストの数倍になっている。
上流のサプライヤーが正常な生産能力レベルまで短期間に回復するのは難しいとみられている。
物流
ほとんどすべての物流企業は作業を再開しており、地域を越えた輸送も円滑に行われている。しかし職場に戻れていない作業員がいるため労働力は不足している。十分な輸送能力とは言えない状況にある。
生産コスト
メーカーの製造コストが上昇している。物流コスト、原材料コスト、人件費などの上昇と感染予防対策費用などがコストの押し上げ要因となっている。戻ってくる作業者の人数が極端に少ないことを危惧して、生産を再開するとすぐメーカーの人事部は作業者を集めるためにサラリーの10~20%のアップを約束している。
■2020年の予測
短期間と長期間のリスク
中国における冷凍空調産業にとって新型コロナウイルスの影響は、感染が流行する期間によって変わってくる。
短期間である場合、リスクは作業者の不足とサプライチェーンが途切れていること、生産コストの上昇、物流の制限とこれによって製品の配給が遅延することだ。もし流行が長期に続いた場合、海外のメーカーはサプライチェーンの変更を余儀なくされ、中国への依存を減らすことになるであろう。これは不可逆的な一連のサプライチェーンの変更を生じ、中国の冷凍空調産業と経済にとって真のリスクとなろう。
市場動向
感染拡大により耐久消費財の需要は弱く、中国の購買力は落ち込んでいる。こうした状況により、空調機メーカーは、生産コストの上昇にもかかわらず、生き残りをかけて価格を下げざるをえない。新型コロナウイルスが流行する前でさえ2020年7月1日から施行される高いエネルギー効率基準に適合させるために、メーカーは値段を下げて不適合製品の在庫を一掃しようとしていた。今回の値下げはさらなる価格競争を生み、この打撃に耐えられず、また高効率機の開発もできなかった中小メーカーによっては市場から撤退するものもでてこよう。その結果主要なメーカーの力がさらに強まってくることになろう。
今回の新型コロナウイルスの流行の結果、人々は室内空気の質(IAQ)に懸念を抱くようになっており、換気の重要性を再認識している。これを受けて空調機メーカーは新鮮空気の取り入れ、殺菌、空気清浄などの新しいエアコンを開発し、製品構成と機能を整えて、市場機会をつかもうとしている。
〔出典:JARN March 25 2020〕
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