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2022年度 省エネ大賞
省エネルギーセンター会長賞
東芝キヤリア株式会社
No.689 2023年3月
製品・ビジネスモデル部門
ビル用マルチ空調システム「スーパーマルチu暖太郎」シリーズ
1.はじめに
ビル用マルチ空調システム「スーパーマルチu暖太郎シリーズ(図1-1)」は、2022年度省エネ大賞・省エネルギーセンター会長賞を受賞した。本製品は、2020年度省エネ大賞を受賞したスーパーマルチuシリーズをベースモデルとして開発した寒冷地向けビル用マルチ空調システムであり、令和4年度デマンドサイドマネジメント表彰も受賞している。同一シリーズでのダブル受賞は業界初(当社調べ)となる。
図1-1 スーパーマルチu暖太郎シリーズ 外観
カーボンニュートラルやCOVID-19を背景に、寒冷地向け空調機での熱源転換(燃焼式⇒電気式)の促進や省エネ換気・外気導入が期待されている。ビル用マルチシステムの室内機、及び、外気処理機の各接続システムにおいて、寒冷地での普及に向けた課題解決をコンセプトに「スーパーマルチuシリーズ暖太郎」を開発した。
業界トップ注1の省エネ性や低外気温暖房能力等の基本性能に加え、①直膨外気処理システムの低外気温度対応不足、②除霜時の省エネ性・快適性・信頼性の悪化、③ピーク電力による電源設備・電気基本料金(契約電力)の増加の課題に対し、独自の寒冷地ソリューション技術・機能(新中間圧制御式個別除霜技術、夜間(8℃)暖房機能、高精度電力推定技術、筐体氷結抑制技術)を組み合わせることで克服している。また、これら新技術・機能は、公的な試験規格がないため第三者である北海道電力(株)と共同で札幌事務所物件(図1-2)にて2021年度冬に実証している。
(注1:2021年7月発売時)
図1-2 札幌事務所実証図
2.製品の技術的特徴
以下に、各技術・機能とその効果について説明する。
図2-1 除霜時の冷媒の流れ
図2-2 P-h線図
1)①外気処理の低外気温対応や②除霜時の省エネ性・快適性・信頼性に対して、独自の中間圧制御式個別除霜(呼称:デュアルステージ除霜)を開発している。図2-1に個別除霜時の冷媒の流れ、図2-2にP-h線図を示す。この除霜は室外ユニットを交互に除霜させる2段圧縮、かつ、中間圧を制御する方式であり、圧縮比フリーのロータリコンプレッサの活用により実現している。この方式は熱源を確保した高温での除霜運転が可能となり、残霜リスクの回避や除霜時間を短縮できるとともに、中間圧制御により室内熱交温度低下を抑制できる。これにより除霜中の室温低下を抑制し、除霜後の室温復帰に必要なピーク能力を抑制できるため、図2-3、図2-4、表2-1に示すようにロータリコンプレッサやデュアルステートインバータが優位な部分負荷運転頻度が増加し、除霜を含む実使用での省エネ性15%向上を確認している。また、図2-5に示すように外気処理接続システムでは、同じ原理で、換気運転率10%や省エネ性20%向上、機器効率は目標COP3を大きく上回る一日平均COP4~5を確認している。
表2-1 除霜方式によるピーク電力、総電力比較結果
図2-3 除霜方式の電力トレンド
図2-4部分負荷特性
図2-5 外気処理性能平均COP特性
本技術はスーパーマルチu標準機にも搭載されている。しかし、寒冷地の低外気温度に適応させるためには低圧縮比による圧縮機保護機能が必要なため、新たに「ブレードジャンピング保護制御」と「異容量除霜Hz制御」を開発・採用し進化させている。これにより室外機側(~-27℃)、利用側(外気~-15℃、夜間8℃暖房)等の低温側への使用範囲拡大を可能としており、業界で唯一寒冷地条件全域での個別除霜による課題克服を実現している。
2)ピーク電力の抑制に対して、夜間暖房機能と電力推定技術による電力デマンド機能を開発している。日本の寒冷地での1年間の電力基本料金は冬季暖房立ち上げ時の30分平均のピーク電力できまる。この回避には運用上24時間連続空調などがあるが電力使用量が増加する。そのため、暖房立ち上げ性や電力使用量の悪化を回避しながらピーク電力を抑制させることを目的に開発した。札幌での実証の結果では、図2-6、表2-2に示すように暖房立上性能同等でピークカット63%、総電力量5%削減を確認している。
図2-6 除霜方式による消費電力トレンド
表2-2 夜間8℃暖房と電力デマンド結果
3)寒冷地の雪害・凍結リスクの回避には、通常熱交換器の着霜対策や防雪フードなどがあるが、北海道名寄市の実証テストにおいて、筐体を起点とする氷結の成長や逆氷柱による底板排水穴閉塞等の筐体氷結を確認している。これに対し、除霜開始の最適化・氷結の起点部位への構造対策、熱交下部へのホットガスバイパス回路を追加し克服している。
4)基本性能は単独機・連結機全域にて業界トップ注1のAPF注2を達成
(注2:APF(通年エネルギー消費効率)はJIS B 8616:2015「パッケージエアコンディショナ」に基づいて算出)
3.おわりに
本機種は、ビル用マルチ空調システム「スーパーマルチuシリーズ」の寒冷地モデルであり、寒冷地特有の課題の解決が、高効率EHP製品の積極的な導入・普及に繋がり、CO2排出量やピーク電力値の抑制に寄与すると考え、技術開発を行った。また北海道札幌市中央区にある、一般事務所ビルにて、実証試験を行い、除霜方式による除霜込みでの性能差、外気処理システムの性能、夜間暖房機能による暖房快適性を維持しながらピーク電力抑制を確認している。また今後も機器の省エネ指標であるAPFの更なる向上を目指しつつ、実稼働での高効率化についても進化させていく。
以上