【製品・ビジネスモデル部門】世界初の水素を燃料とした吸収冷温水機RHDH型 写真1 省エネ大賞表彰式 1.はじめに地球温暖化の原因として考えられている温
2024年度省エネ大賞
省エネルギーセンター会長賞
荏原冷熱システム株式会社
株式会社荏原製作所
No.703 2025年3月
【製品・ビジネスモデル部門】
世界初の水素を燃料とした吸収冷温水機RHDH型
写真1 省エネ大賞表彰式
1.はじめに
地球温暖化の原因として考えられている温室効果ガスの削減は、世界共通の課題であり、全世界で2050年カーボンニュートラルの実現を目指している。
水素は次世代エネルギーとして注目されており、水素社会の構築や水素利用の拡大は一体的に推進する必要がある。
荏原グループは、水素サプライチェーン「つくる・はこぶ・つかう」をかかげ、荏原グループの製品・技術を利用して種々の水素対応製品を開発している。
今回紹介する水素焚吸収冷温水機は、水素を直接「つかう」製品であり、水素の燃焼熱を利用して、主に空調用の冷水・温水を製造する冷凍機である。
2.製品概要
◆仕様
今回開発した水素焚吸収冷温水機RHDH型の仕様を表1に示す。基本的な仕様は都市ガスを燃料としたRHDG型と同様であるが、燃料条件と配管パージ用の窒素が追加されている点が異なっている。
写真2:水素焚吸収冷温水機RHDH型
◆吸収冷温水機の構成と水素焚の変更点
RHDH型は、従来機のRHDG型の構造を踏襲しつつ、燃料に関わる高温再生器の一部と燃焼装置を水素専焼用に変更した。
RHD型シリーズの高温再生器は炉筒液管式であり、炉筒は燃焼ガス接触部が液冷壁(燃焼ガス接触部の裏側にLiBr水溶液がある構造)であることから、燃料を水素に変更しても大きな変更は必要ない。ただし、水素は都市ガスに比べて火炎温度が高く、燃焼速度が速いことから、形成される炎の形状が異なり、炉筒部の熱負荷分布が都市ガスの場合と異なる。そこで、RHDH型の高温再生器は、炉筒寸法を一部変更し、断面負荷率と体積負荷率を、都市ガスを燃料とした場合よりも大きくし、余裕をもった構造とした。
表1:水素焚吸収冷温水機RHDH型 仕様
◆水素バーナの安全対策
水素は都市ガスに比べて燃焼範囲が広く、燃焼速度が速いため、容易に燃焼させることができるが、その反面安全性は都市ガスよりも危険側になる。水素燃焼において最も懸念されるのは逆火の発生である。そのため、従来の都市ガス用のバーナに加え、下記の3種類を逆火防止策として採用した。
① 不活性ガス(窒素)による水素配管内パージ
② フレームアレスタの設置
③ ガスノズルの小口径化による、水素流速の増加
◆火炎検知
水素は、都市ガスと燃焼炎のスペクトルが異なるため、従来都市ガスで使用していたUVを利用した火炎検知器が使用可能か検証した。
水素火炎のスペクトルは、UV検知範囲の端に位置するが、燃焼試験の結果、従来の件検知器で検知は可能であると判断した。
ただし、火炎の検知能力は都市ガスに比べると劣るため、全燃焼領域で問題なく火炎検知可能なように、取付位置と取付角度を調整した。
◆燃焼限界
水素は都市ガスと異なり、燃料中に炭素を含まないため、不完全燃焼状態になって排ガス中にCOが発生せず、COによる不完全燃焼の判断ができない。そこで、各燃焼量で排ガス中の酸素濃度と水素濃度を測定し、排ガス中の酸素濃度による安定燃焼可能範囲を決定した。
排ガス中の酸素濃度下限は、不完全燃焼による未燃水素排出を防止するため、1%とした。また、排ガス中の酸素濃度が15%を超えても安定して燃焼することを確認したが、NOxが増加すること、都市ガスの排ガス中の酸素濃度上限が約10%であることから、都市ガスと同じ10%を上限とした。
◆各燃焼量における排ガス酸素濃度とNOx
水素を燃焼する際、環境に及ぼす影響として排ガス中のNOx量が問題になる。水素は火炎温度が高いため、都市ガス用のバーナで水素を燃焼すると都市ガスの数倍のNOxが発生する傾向にある。そこで、ガスノズルと空気ノズルの形状、寸法を工夫し、水素燃焼に適した分割火炎形状、薄膜火炎形状、内部燃焼ガス再循環流を形成することで低NOx化を図った。
排ガス酸素濃度によりNOx値は大きく変化するが、排ガス酸素濃度を8%以下になるように空気量の調整を行い、NOxを40ppm以下に抑えられた。
当社のバーナは、燃料調量弁と空気ダンパを独立して制御するリンクレス機構を標準としており、各燃焼量においてNOxが最も低い排ガス酸素濃度になるように調整が可能である。
◆水素燃焼によるCO2排出削減効果
水素は燃料燃焼時にCO2が発生しないため、従来の燃料と比較した場合、燃料由来のCO2は100%削減可能である。ただし、吸収冷温水機には、ポンプ、バーナ等に電気を使用しているため、電力由来のCO2は残る。灯油に比べて95%、都市ガスに比べて94%の年間CO2排出量削減となる*2。
グラフ1:水素燃焼によるCO2排出削減効果
※試算データ:空気調和・衛生工学会の空調負荷データ(病院)を使用し,表1の吸収冷温水機本体の燃料消費量と消費電力から算出した結果。水素を使用した場合,燃料由来のCO2排出量はゼロになります。吸収冷温水機のポンプ類,バーナファン等に電気を使用するため,電気由来のCO2排出量が残りますが,再生可能エネルギー由来の電気を使用すればCO2排出量はゼロになります。
※NOx値はO2=0%換算。
3.おわりに
今回紹介した水素焚吸収冷温水機RHDH型は、当社最新機種に搭載している冷却水や冷温水の変流量制御、省エネ運転モード、始動時間短縮制御といった各種省エネ技術を標準で搭載しており、水素利用によるCO2排出量の削減だけでなく、消費エネルギーの削減にもつなげることができる。
水素焚吸収冷温水機は、燃料の燃焼時にCO2を排出せず、冷媒には自然冷媒である水を使用しているため、カーボンニュートラル時代に適した製品であり、来るべき水素社会の実現に向けて、大いに期待できるとご評価いただき、この度、一般財団法人省エネルギーセンターが主催する2024年度(令和6年度)省エネ大賞の製品・ビジネスモデル部門において『省エネルギーセンター会長賞』の受賞となった。
*1:本報中の○○型の表示は当社機種記号を表す。
*2:空気調和・衛生工学会の空調負荷データ(病院)を使用し、算出した結果。
以上