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第3章 エアコンのしくみ |
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3.3 冷媒と冷凍機油について |
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(1) 冷媒について
冷媒とは,通常“フロン”と呼ばれていますが,法律上の正式な呼び方は“フルオロカーボン”です。(以下フロンといいます)
エアコンに使われる冷媒は,このフロンがほとんどです。フロンの他にはアンモニアや炭酸ガスが一部に使われています。ここではフロンについて記載します。
フロンは,1920年代に米国で発明され,その冷媒としての優秀な性質から1950年ころからエアコンや冷凍機などに使われ始め,それまで使われていたアンモニアやメチルクロライドなどにとってかわりました。
近年,このフロンによるオゾン層破壊や地球温暖化の問題が出てきて,全てのフロンを大気に放出することができなくなりました。日本では2001年4月から家電リサイクル法により住宅用エアコンや家庭用電気冷蔵庫が規制の対象になり,2002年4月から業務用空調機器・冷凍冷蔵機器とカーエアコンが規制の対象になりました。
ここで,冷凍サイクルで冷媒の求められる性質について考えてみましょう。
1)冷媒として求められるものについて
冷媒として使用されるフロンは,気体冷媒を機械的に圧縮して高温・高圧にし,これを冷却し液化させ,さらに膨張・気化させ,そのときに低温になることを利用して,周囲の温度を下げています。冷凍サイクルやサイクルを構成している部品などは使用状況から様々な性質が要求されます。
(a) 物理的な性質
(b) 化学的な性質
(c) その他
2)フロンの分類について
上記の内容から地球環境に与える影響の内容が異なるために,次の3種類に分類できます。
(a) CFC(クロロフルオロカーボン)…塩素(Cl)+フッ素(F)+炭素(C)
R-11,R-12,R-502など,オゾン層破壊に最も大きな影響があり,日本では1995年末で生産禁止になっています。
(b) HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)…水素(H)+塩素(Cl)+フッ素(F)+炭素(C)
R-22など,オゾン層の破壊はCFCほどではないが,日本では2020年末で生産が全廃になることが決まっています。現在使用されている冷凍機・空調機のほとんどがHCFC冷媒のうちのR-22を使用しています。
(C) HFC(ハイドロフルオロカーボン)…水素(H)+フッ素(F)+炭素(C)
R-134a,R-407C,R-410A,R-404Aなどで,オゾン層を破壊しない冷媒として使われ始めています。
オゾン層は破壊しませんが,炭酸ガスなどとともに地球温暖化対策の指定対象物質になっています。
これらを含めた主な冷媒の特性を表3.1に示します。
3)冷媒取扱上の注意について
フロンを使用する際に,取扱上次のような注意が必要です。
(a) 大気中への排出抑制
CFC,HCFC冷媒は,大気中に放出されると成層圏のオゾン層を破壊します。また,HFC冷媒はオゾン層を破壊しませんが,地球温暖化には大きな影響があります。従って,機器の据付時,運転時,メンテナンス時,廃棄時には冷媒を漏らさないようにすることが肝心です。
(b) 水分の混入の防止
冷凍サイクル中に水分が混入すると,エアコンの運転に種々の問題を引き起こします。
水分は,冷媒・冷凍機油・金属などと化学反応を起こし,冷凍機油の劣化や腐食の原因になります。更に水分量が多くなると,水分が膨張弁やキャピラリ―チューブの部分で氷結し,詰まらせて冷凍サイクルの運転が出来なくなることもあります。
(c) HFC混合冷媒への対応
HFC冷媒は,オゾン層破壊防止のために使われ始めた冷媒ですが,取扱上の注意が厳しくなっており,機器の工事説明書やサービス説明書などをよく読んで対応する必要があります。
(2) 冷凍機油について
冷凍機油はエアコンの心臓部である圧縮機の潤滑油として使用され,圧縮機の中の駆動部分の減摩,冷却,防食などの働きをします。また,一部は冷媒と一緒に冷凍サイクルの中を循環します。つまり低温から高温まで(機器によっては約−50℃〜約120℃)の範囲で温度に対しても冷媒に対しても安定した性能が必要です。
前段の冷媒の項でも述べましたが,冷媒の種類がCFCやHCFCからHFC冷媒に変更になるに伴い,従来の冷凍機油ではHFC冷媒には使えないことが判り,冷凍機油も変更されています。これは,従来の冷凍機油は,CFCやHCFC冷媒に含まれていた塩素(Cl)が潤滑にも冷媒との溶け込みにも作用していたものが,HFC冷媒になり,塩素が含まれなくなったため,潤滑などに問題が出てきたためです。従ってHFC冷媒のエアコンなどでは,冷凍機油も変更になっています。
1)冷凍機油に求められるもの
エアコンや冷凍機など機器側から求められる性能などから冷凍機油は変わりますが,基本的に必要な特性は次の通りです。
2)冷凍機油の種類について
冷凍機油は,機器の用途(空調,冷凍,冷蔵等)や形式・機器の容量・使用冷媒により変わります。この冷凍機油は,鉱油と合成油に大別され,主な種類は表3.2のようになります。
HFC冷媒には従来の鉱油では,相溶性がほぼ完全に損なわれるため,相溶性を持つ合成油が使用されます。
3)冷凍機油取扱上の注意について
冷凍機油は厳しい品質管理のもとに製造されており,また,機械油と比べても非常に高級な油です。このため,取扱の際には,ある程度きっちりした扱いをしないと,後々トラブルの原因になります。
図3.1 主なフロンの飽和蒸気線図
表3.1 冷媒の特性概要(冷媒別飽和温度と圧力)
項目 | 単位等 | CFC | HCFC | HFC | 混合冷媒 | 炭化水素 | アンモニア | ||||
冷媒番号 | R11 CCl3F |
R12 CCl2F2 |
R502 CHClF2/CH3CHF3 |
R22 CHClF2 |
R134a CH2FCF3 |
R404A | R407C | R410A | R290 | R717 | |
冷媒成分 | R22/R115 | R125/143a/134a | R32/125/134a | R32/125 | プロパン | ||||||
冷媒組成 | % | 48.5/51.2 | 44/52/4 | 23/25/52 | 50/50 | ||||||
沸点 | ℃ | 23.8 | −29.8 | −45.2 | −40.8 | −26.1 | −46.1 | −43.6 | −51.4 | −42.1 | −33.3 |
成分毎の 沸点 |
℃ | −48.1/−47.3 /−26.1 |
−51.7/−48.1 /−26.1 |
−51.7/−48.1 | |||||||
飽和圧力 | MPa (30℃液) |
0.13 | 0.77 | 1.36 | 1.24 | 0.77 | 1.42 | 1.36 | 1.89 | 1.12 | 1.21 |
オゾン 破壊係数 |
ODP | 1.0 | 1.0 | 0.334 | 0.055 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
地球温暖化 係数 |
GWP | 4,000 | 8,500 | 5,600 | 1,700 | 1,300 | 3,260 | 1,530 | 1,730 | <3 | <1 |
燃焼性 | ASHRAE34 | 不燃 (A1) |
不燃 (A1) |
不燃 (A1) |
不燃 (A1) |
不燃 (A1) |
不燃 (A1/A1) |
不燃 (A1/A1) |
不燃 (A1/A1) |
可燃 (A3) |
可燃 (B2) |
冷凍機油 | 鉱油 | 鉱油 | 鉱油 | 鉱油 | 合成油 | 合成油 | 合成油 | 合成油 | 鉱油 | 鉱油 |
表3.2 冷凍機油の種類
冷凍機油 | 鉱油 | ナフテン系 | ナフテン系炭化水素を主成分とし,流動点が低く,ワックス分が少ない。R-22との相溶性がよい |
パラフィン系 | R-22との相溶性はナフテン系より劣るが,温度変化に対して,油の粘度の変化が小さい | ||
合成油 | アルキルベンゼン | 流動点が低いため,超低温の冷凍機に使われることが多い | |
ポリビニールエーテル | HFC冷媒のエアコン用に開発された油でHFCとの相溶性に優れ,且つ耐加水分解性にも優れている | ||
ポリアルキレングリコール | HFC冷媒のうちR-134a用に使用されることが多く,カーエアコン用の圧縮機にはほとんど使用されている | ||
ポリオールエステル | HFC冷媒との相溶性に優れ,電気絶縁性も高く,耐熱性にも優れている。反面耐加水分解性が若干劣るため,水分との反応により,カルボン酸とアルコールを精製することがある |