基礎知識

第3章 エアコンのしくみ

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3.2 冷凍サイクルと主要構成機器について

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 前項でも述べましたが,冷凍サイクルは圧縮機・凝縮器・膨張弁及び蒸発器の4主要機器から成立っています。冷媒はこれらの中をいろいろな状態変化(すなわち,気体・液体の変化,温度・圧力の変化など)をしながら循環します。これら構成機器について以下に説明します。

 以下に図2. 1の冷凍サイクル概要に示す,各構成機器について概略説明します。

 図2.1 冷凍サイクル概要
図3.2.1

(1)圧縮機

図2.2
圧縮機の内部構造概略及び吸込みから圧縮までの行程
図3.2.2

 圧縮機は,人間の体でいえば心臓に相当します。人間の心臓は体の中の血液を循環させるとともに,汚れた血液をきれいにして体の各部へ送り出します。これを冷凍サイクルに置換えて考えると,低温・低圧の冷媒ガスを高温・高圧の冷媒ガスに変化させ,送り出すことと考えることができます。
 エアコンの冷凍サイクルの中で最重要な圧縮機には右のようなものがあります。
 概略の構造は,図 2. 2の通りです。

1. 往復動式圧縮機

 往復動圧縮機の圧縮工程は図の(1)の通りで,ピストンが動くのにつれて,冷媒を吸込んでから圧縮して吐き出します。大形の圧縮機を作るときには,他の圧縮機より容易に製造できる利点があります。

2. ロータリー式圧縮機

 ロータリー式圧縮機には図の(2)と(3)がありますが,往復動より部品点数が少なく,圧縮機としての故障確率は少なくなります。家庭用エアコンや家庭用電気冷蔵庫などに多く使われています。

3. スクロール式圧縮機

 スクロール式圧縮機は,2つの渦巻き状のスクロールが回転しながら圧縮し,吸込と吐出の弁が不用です。スクロールの加工精度を高く要求されるので,大きな圧縮機を作るのには問題があります。

4. スクリュー式圧縮機

 スクリュー式圧縮機は,大きな空調機(大形パッケージ形エアコン,チラーユニット等に使われています。

図2.3 空冷式凝縮器の例図.2.4 水冷式凝縮器の例
図3.2.3 図3.2.4

エアコンの冷凍サイクルの中での最重要な圧縮機
       
大分類 小分類概略消費電力主な利用機器
       
往復動圧縮機
0.1〜120kW
エアコン,冷凍機等
        
回転圧縮機
 
 
回転ピストン形
 
0.1〜5.5kW
 
エアコン,電気冷蔵庫等
       
 
ロータリーベーン形
0.6〜5.5kW
エアコン,電気冷蔵庫等
       
 
スクロール形
0.75〜7.5kW
エアコン,冷凍機等
       
 
二軸スクリュー形
15〜300kW
エアコン,チラーユニット,冷凍機等
       
 
 
シングルスクリュー形
 
22〜90kW
 
冷凍機,エアコン等
       
遠心圧縮機
90〜10,000kW
空調,冷凍機

(2)凝縮器

 凝縮器はコンデンサとも言われ,最近はヒートポンプ式のエアコンが主流となり,冷房のときは凝縮器となり,暖房のときは蒸発器となることから,室外熱交換器とも言われます。凝縮器は,圧縮機で圧縮された高温・高圧の冷媒ガスを,冷却して液化させる役目をしています。凝縮器には,冷媒を液化させるための媒体として,空気や水を使用しますが,通常家庭用エアコンや業務用のエアコンの大部分が空気を用いた空冷式になっており,空気との接触面積を大きくして熱交換の効率を上げるために,銅パイプに薄いアルミフィンを密着させています。

図2.5 電子膨張弁
図3.2.5

(3)膨張弁

 膨張弁は,凝縮器で液化された高温・高圧の冷媒を圧力と温度を下げる減圧装置で,冷房時には室内の温度を下げるために,又,暖房時には屋外の低温部から吸熱して,室内へ放熱して暖房をするようになっています。この膨張弁の役目をするものに,キャピラリチューブ(内径が 1.2 〜 1.8mm 程度の銅管で出来ており,冷媒の流れに抵抗をつけて圧力を下げる),温度式自動膨張弁(蒸発器を出る冷媒のガス温度と蒸発器の中の圧力により流れる冷媒の量を制御する),電子膨張弁(冷凍サイクルの状態をマイコンからの指令で制御する)等があります。最近のエアコンはほとんどマイコン制御がなされており,従って,膨張弁は電子膨張弁が多く使われています。電子膨張弁はマイコンからのパルス信号で制御されるため,木目細かな冷媒の流量の制御ができ,冷房も暖房も温度変化をなだらかにすることができます。電子膨張弁の構造を図 2. 5に示します。

(4)その他の主な冷凍サイクル部品

1. 四方弁
冷房時と暖房時の冷媒の流れを変える機構で,冷房時には圧縮機を出た冷媒ガスを室外の熱交換器へ送り,暖房時には室内の熱交換器へ冷媒を送ります。構造は図2.6に示します。
2. アキュームレータ
圧縮機では気化された冷媒を圧縮しますが,蒸発器で十分蒸発されない冷媒がそのまま圧縮機に吸込まれますと,圧縮機の弁を壊す可能性があり,これを防ぐために圧縮機の入口に取付けられるもので,この中で液のまま戻ってきた冷媒を一旦溜め気化させて圧縮機へ送ります。構造を図2.7に示します。
3. ドライヤ・ストレーナ
ドライヤは冷凍サイクル内の水分を取除き,ストレーナは冷凍サイクル内のゴミを取除くために取りつけられます。構造は図 2. 8に示します。
図2.6-1 四方弁(冷房時)  図2.6-2 四方弁(暖房時)
図3.2.6-1 図3.2.6-2

図2.7
アキュムレータ
 図2.8
ドライヤ・ストレーナ
図3.2.7 図3.2.8

(5) 電気制御機器

 最近の家庭用エアコンやパッケージエアコンの運転制御は,ほぼマイコン化されており,マイコンを介して運転を制御しています(室温,風量,冷暖房の切換等)。また,運転中に発生した故障についてもどのような故障が発生したかも表示してくれるようになっています。

1. エアコンの基本的な制御(制御のシーケンス)

 エアコンの基本的な制御とは,冷房で考えてみましょう。要求される部屋の温度に対して,温度が高ければ,圧縮機を運転して,エアコンから出てくる温度を下げ,要求される温度に達したときには,圧縮機を止めます。また,機械側に何らかの不具合が発生したときには,圧縮機を止めて大きな故障になるのを防ぐということが基本の制御です。
これのために,いろいろな制御用の部品や,安全のための保護装置を組込んであります。
エアコンの制御内容の例を図2. 9に示します。(取敢えず内容や記号がわからなくても,順を追ってどのようなものが作動するかを見てください)
 次ページ図の記号の説明は次のとおりです。

<図2.9の記号の説明>

記号意味内容
CHクランクケースヒータ圧縮機の油の温度を上げる
Y52Cリレー 
FSフロートスイッチドレン水量管理
52C電磁接触器圧縮機運転用
YH2リレーフロートスイッチ制御用
MC圧縮機モータ 
MDドレンポンプドレン水排出用
MFC室外機送風機モータ 
H2結露防止ヒータ空気吹出口露付き防止
MFE室内送風機モータ 

 

図2.9 パッケージエアコンの冷房時の運転制御例

図3.2.9

 現在のエアコンは,家庭用ではほとんどががインバータ方式になっています。インバータ方式では,圧縮機や送風機の電動機の運転を必要に応じて周波数を変換することにより制御します。周波数を高めると能力を上げ,周波数を低くすると運転をセーブして省エネ効果も果すようになっています。このエアコンの制御の基本について,リレーシーケンスを説明します。この基本のシーケンスは下記の通りですので,充分理解をしてください。

図2.10 エアコンのシーケンス(例)

 

記号名  称 記号名  称 記号名  称
MC電動機(圧縮機用) 26W凍結防止サーモスタット NKノイズキラー
MF電動機(送風機用) EF1,2ヒューズ H電気加熱器
52C電磁接触器(圧縮機用) PWBプリント板 52H電磁接触器(電気加熱器用)
49Fインターナルサーモスタット(MFに内蔵) 47C逆相リレー PF電力用温度ヒューズ
51C過電流継電器(圧縮機用) RL表示灯(赤色) 26H過熱防止用サーモスタット
X1〜5補助継電器 OL表示灯(橙色) FH温度ヒューズ
BS押ボタンスイッチ TB1〜4端子台 52FT電磁開閉器(クーリングタワー用)
23温度調節器(サーモスタット) Cコンデンサ S1,2手元開閉器
63H高圧遮断器(高圧圧力スイッチ) CS1,2切換スイッチ(冷暖房切換・風量切換) SC進相コンデンサ
26TL吐出ガスサーモスタット(過熱防止) DS接続端子   


 前ページ図のシーケンスの操作は,次のとおりです。操作順序を下図に当てはめ順を追ってみてください。

 

図2.11 エアコンの運転フロー(例)

 

 又,保護装置の作動については下図の通りです。何が作動するとどういう順序で停止するのかを確認してください。

 

図2.12 エアコン保護制御(例)


(6)主な電気部品について

 主な電気部品の形状は,次の通りです。前ページのシーケンスと見比べて形を覚えてください。

  1. 電磁接触器(52C,52H,52FT)
    圧縮機や送風機の電動機を運転したり停止したりします。サーモスタットなどで制御されます。
  2. インターナルサーモスタット(49F)
    電動機の中に組込み,電動機の温度が異常に上昇した場合止める装置です。
  3. 過電流継電器(51C)
    圧縮機用電動機がある一定以上の電流が流れたときに圧縮機を停止させ,故障を未然に防ぎます。
  4. ロータリスイッチ(CS1,2)
    運転のモード切換や設定温度の切換に使います。
  5. 押ボタンスイッチ(BS)
    電源投入や運転モードの切換に使います。
  6. ヒートカット
    家庭用エアコンなどの圧縮機の頭部に付け,電動機のコイル温度が異常上昇したときに電源を強制的に切り電動機の焼損を防ぎます。
1. 電磁接触器2. インターナルサーモスタット3. 過電流継電器
   
4. ロータリスイッチ5. 押ボタンスイッチ6. ヒートカット


(7)冷媒系統部品について

 サイクル制御部品は,冷房や暖房運転をしている時に,温度や運転圧力を制御するための部品です。

  1. 膨張弁(電子式と機械式があります)
    要求される負荷に合わせた冷媒の流量を制御します。
  2. 電磁弁
    冷媒の流れを止めたり流したりし,圧縮機が停止したときに冷媒が圧縮機に溶け込まないようにするものなどがあります。
  3. 四方(切換)弁
    ヒートポンプサイクルの場合冷房と暖房で冷媒の流れを切り変えます。(蒸発器と凝縮器の役割を変える)
  4. 逆止弁
    冷媒の流れを逆に流れないようにする弁です。逆に流れると異常な運転になるのを防ぎます。
  5. ドライヤストレーナ
    冷凍サイクルの中で徐々にできた金属粉やゴミなどを除去します。
  6. アキュームレ−タ
    蒸発器と圧縮機の間に取付けて吸入ガスの中の液冷媒を分離し圧縮機に液冷媒が入らないようにします。
1. 膨張弁2. 電磁弁3. 四方(切換)弁
   
4. 逆止弁5. ドライヤストレーナ6. アキュームレ−タ


(8)主な保護制御部品について

  1. 圧力開閉器(通常圧力スイッチと言います)
    圧縮機の運転圧力が異常になった時に作動し圧縮機を止めます。高圧が高くなれば高圧圧力スイッチが低圧が異常に低くなれば低圧圧力スイッチが作動し,故障を未然に防止します。(家庭用は高圧のみです)
  2. サーモスタット
    空気・冷媒などの温度を一定に保持したり,室内が設定の温度になったことを感知し,エアコンの運転を制御します。(最近のエアコンはほとんど抵抗式のサーミスタで温度感知をします)
  3. 逆相防止リレー
    スクロールやロータリー圧縮機は,構造上逆転では運転できません。逆転させると圧縮機の内部が固渋したり,焼損したりすることがあります。これを防止するために,電源の相が間違っていれば,運転を停止しなければなりません。試運転時と電源側の工事などがあったときに電源の相が合っているかどうかを確認します。
  4. ドレンポンプ
    天井カセット形や天井埋込み形のエアコンでドレンパンにたまったドレン水を排出するためのポンプで,揚程がほとんどありません。
  5. フロートスイッチ
    天井カセット形や天井埋込み形のエアコンでドレン水の量を感知して,異常な水位になればエアコンの運転を停止します。
1.圧力開閉器 2.サーモスタット
   
3. 逆相防止リレー 4. ドレンポンプ5.フロートスイッチ


(9)送風装置について

 送風装置は,エアコンに無くてはならないものです。送風装置がなければ,エアコンから風が出てこず,エアコンの役目をしません。
 送風装置は,エアコンの室内機では,熱交換器で冷やされたり,暖められたりした空気を室内に送出す装置で,空冷式の室外機でも,同様に空気を吸込み送出します。
 送風装置に使われる送風機はつぎのような構造をしたものが使われています。この送風機は電動機で運転され,電動機の回転数を変えることにより,風量を変えています。
 主な送風機の構造を以下に示しますが,風が出てくるところをふさぐような衝立などを置くと,風がそれに当りそのままエアコンに吸込まれ,室内の空調効果が少なくなります。
 エアコンの送風機の前か後には大きなゴミを取除くためにエアフィルターが取り付けられています。

  1. クロスフローファン
    住宅用エアコンの主流である壁掛形エアコンの送風機のほとんどがこのタイプです。
  2. シロッコファン
    天井吊り形エアコンや床置形エアコンの送風機に使用されているのがこのタイプです。
  3. ターボファン
    天井カセット形のエアコンに多く使われています。
  4. プロペラファン
    エアコンの室外機の送風機のほとんどがこのタイプです。
1. クロスフローファン2.シロッコファン
  
3. ターボファン4. プロペラファン


 エアコンの運転には以上述べてきたような,いろいろな電気部品,保護制御部品を使用して,エアコンが快適に使用できるようになっており,また,異常が発生しても事前に察知して故障を未然に防ぐようになっています。ただし,故障を未然に防ぐようになっていても,定期的にメンテナンスをしなかったり,エアコンの据付条件(据付後の周囲の条件も含まれます)が適切でなければ,故障になりますので,メンテナンスには充分気をつける必要があります。(メンテナンスについては,後段で説明します)

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