基礎知識

第3章 エアコンのしくみ

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3.1 エアコンの基本原理

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 エアコンの基本原理は,第1章1.4 (5)で説明しておりますが,「フルオロカーボンやアンモニアのような,蒸発しやすい液体を蒸発させ,その蒸発熱で空気や品物を冷やす」ということです。

 

(1) ものを冷やすのにはどのような方法があるのでしょうか

  図1.1 物質の状態変化
  図1.1

 ものの温度を下げることは広く「冷却」といわれておりますが,そのうちで,ものから熱を奪って周囲よりも低い温度にすることを「冷凍」といいます。(冷凍空調業界では,「冷却」のことを一般的に「冷凍」といいます)

 ある物体の温度を下げるには,いろいろな方法があります。これを熱の利用という点から分類してみますと次のようになります。

 1) 融解熱の利用 ・・・氷や起寒剤(例:水+食塩)を利用する 
 2) 昇華熱の利用 ・・・ ドライアイス(固形二酸化炭素)を利用する
 3) 蒸発熱の利用 ・・・ 蒸発しやすい液体(例:水,アルコール,フルオロカーボン等)を蒸発させる方法

 現在,エアコンや冷凍機に最も普通に使用されているのは,3) の蒸発熱を利用する方法です。


(2) 冷凍の原理

1) 水が蒸発するときの冷却効果

 水は大気圧のもとでは 100 ℃で沸騰します。この沸騰している間は,いくら熱を加えてもお湯の温度は変わりません。これは水が沸騰,すなわち蒸発するために1s 当りに 2260 kJ という大きな熱量を必要とするので,加熱した熱量はすべて蒸発熱として費やされるためです。これは,同じように氷が溶けている間は,氷と水が混在していますが,この時の氷と水の温度は氷が溶けてなくなるまでの間0℃であることも同じです。図1.2に水の状態変化と熱量の関係を示します。
 図1.2からも判るように蒸発した水は水蒸気になりますが,一般に液体が蒸発すれば気体になり,気体になったものを蒸気またはガスといいます。

  図1.2 水の状態変化と熱量の関係
  図1.2
 
※(例題)   -10℃の氷50kgが,30℃の部屋の中に溶けて20℃の水になったとすると,この水と氷は部屋の中からどれほどの熱量を吸収したことになるでしょうか。計算してみてください。(氷の温度が上昇するときは,2.0kJ/Kg・Kの熱量を要する)

2) 冷媒が蒸発するときの冷却効果

  図1.3 R-22の飽和蒸気曲線
  図1.3

 水より更に蒸発しやすい液体である「フルオロカーボン」(R-22,R-407C,R-404A,R-410A など)は,大気圧のもとでは零下数十度という非常に低い温度で蒸発します。
 これら液体が蒸発する温度は,液体の周囲の圧力により変化します。例えば,富士山の頂上で水を火にかけてお湯を沸かしますと,約 87 ℃で沸騰し蒸発します。これは富士山の頂上の大気圧が我々が生活をしている地域の大気圧より低いためです。つまり,液体の周囲の圧力が低いと液体は低い温度で蒸発し,周囲の圧力が高いと高い温度で蒸発します。図1.3にフルオロカーボン R-22(従来エアコンに一番よく使われている冷媒)の蒸発温度と圧力の関係を示します。(これを飽和蒸気線図といいます)
 フルオロカーボンのように,低温で蒸発しやすい液体で,エアコンや冷凍機に使用される「冷たさ」を運ぶ仲立ちとなるものを『冷媒』といいます。
 冷媒液が蒸発するときの熱量は,すなわち冷却効果は,その冷媒の種類,圧力により異なりますが,エアコンや冷凍機は,この蒸発熱を利用しているのです。(使用目的により冷媒の種類を変えることが必要です・・・エアコンと冷凍機は違う冷媒を使用しています)
 冷却の目的だけであれば,単に冷媒液を蒸発させればよいのですが,実際問題として蒸気となった冷媒を大気中に捨ててしまうことは,地球環境の観点からも絶対してはならないことです。  
 したがって,この蒸発した冷媒ガスを,また元の液体に戻して,再び蒸発させるようにして,一定量の冷媒を用いて,ガス化〜液化を繰り返し冷却を行わせる必要があります。
 フルオロカーボンの蒸気は,圧縮してその圧力を高めることにより,より高い温度で液化させることができます。 
 例えば,フルオロカーボン R-22 において,その蒸気の圧力を 1.49 MPa(ゲージ圧力)まで高めて,高圧になったこの蒸気を 41 ℃以下まで冷やすと液になります。(図1.3 R-22 の飽和蒸気曲線 参照)
 実際のエアコンや冷凍機は,水や空気を使って冷やしてやれば,冷媒は容易に液化することができます。このように冷媒の圧力を高めたり,下げたりして,ガス状に変化させたり,液化させたりする方法が冷凍の原理です。その一つが以下に述べる圧縮式冷凍機です。


例題の解

(イ) −10℃(263K)の氷から0℃(273K)の氷まで・・・・・・2.0 kJ/kg・K×50 kg×(273−263)K=1,000 kJ
(ロ) 0℃の氷から0℃の水まで・・・・・・334kJ/kg×50 kg=16,700 kJ
(ハ) 0℃の水から 20℃(293K)の水まで・・・・・・4.20 kJ/kg・K×50 kg×(293−273)K=4,200 kJ  
合計熱量=1,000+16,700+4,200=21,900 kJ


(3) 圧縮式冷凍機の構成

  図1.4 圧縮式冷凍機の構成
  図1.4

 圧縮式冷凍機の構成は図1.4のようになっています。
 すなわち,圧縮式冷凍機は「圧縮機(compressor)」,「凝縮器(condenser)」,「膨張弁(expansion valve)」および「蒸発器(evaporator)」の4主要部から構成されており,冷媒は,これらを通って循環します。

1) 4主要機器の役目

 (a) 圧縮機 ・・・ 蒸発器からきた低圧の冷媒ガスを吸込み,圧力を高くして高圧部へ送り込むとともに低圧部の圧力を低く保ちます。
 (b) 凝縮器 ・・・ 圧縮機から送られてきた高温・高圧の冷媒ガスを空気または水で冷却し,中温・高圧の液冷媒にします。
 (c) 膨張弁 ・・・ 凝縮器から送り込まれた高圧の液冷媒を所定の低温で蒸発するように減圧する役目をするもので,必要な量の冷媒を低圧部に送り込みます。
 (d) 蒸発器 ・・・ 蒸発器部に送風される空気または送水される水等により,膨張弁からきた低温・低圧の液冷媒を蒸発させます。これにより,蒸発器部分を通る空気または水等は冷却され,空気においては減湿もされます。

2) 冷凍サイクル

 図1.4から判るように,冷媒は,ある状態から出発して次々と連続的に状態が変化し,また元の状態に戻ってきます。このような変化を連続的に繰り返します。このように冷媒が循環することを“冷凍サイクル”といいます。
 エアコンの冷凍サイクルの概念図は図1.5,図1.6に示すとおりです。
 エアコンは,昨今殆どがヒートポンプ方式といい,冷暖房兼用になっています。これは,暑い時は冷房機として,寒い時は暖房機として使いますが,そのときのエアコンの冷凍サイクルは,冷房時は図1.5のように 圧縮機からでた冷媒が,凝縮器(ここでは,室外機の熱交換器)で高温高圧の液冷媒になり,膨張弁(室内機に組込まれています)で低温・低圧液にして,蒸発器(ここでは,室内機の熱交換器)で冷風を出し,室内を冷房します。
 また,暖房時は図1.6のように 圧縮機から出た冷媒が,凝縮器(この場合は,室内機の熱交換器)で高温高圧の液冷媒になります。この時に室内の熱交換器を通る風が暖められ室内を暖房します。この後,膨張弁(室外機に組込まれています)で低温・低圧の液冷媒になり,蒸発機(この場合は,室外機の熱交換器)で低温・低圧のガス冷媒になり圧縮機に戻ります。
 現在一般的に販売されている「空冷ヒートポンプ式エアコン」での暖房方式は,火を使わない安全性,更に排気ガスがないクリーンな暖房など優れた特性を持っています。
 以上のように,温度の低いところから熱を吸収して高温部へ移動し,高温の熱を放出して暖房に利用するのを「ヒートポンプサイクル」といいます。
 冷房と暖房の切換は図1.5,図1.6にあります「四方切換弁」により冷凍サイクルを切替えます。実際にはエアコンのスイッチ部で冷房・暖房を切り替えることにより,自動的に切り替わります。

3) 冷凍サイクルの高圧部と低圧部

 冷凍サイクルは,図1.4や図1.5等から判るように「圧縮機」から「凝縮器」などを経て「膨張弁」に至るまでは配管で連なっていますので,同じ圧力になっています。その圧力は,冷媒蒸気を空気または水(通常冷却水と言います)等により蒸気から液体に凝縮されるのに必要な高い圧力にあります。この部分を高圧部といいます。
 また,「膨張弁」から「蒸発器」を経て「圧縮機」に至る間もすべて配管により連なっており,この間も同じ圧力になっております。その圧力は,所定の低温で液冷媒を蒸発させるために必要な低い圧力になっております。この部分を低圧部といいます。
 高圧部と低圧部とは,一方では「圧縮機」により,他方では「膨張弁」により境になっています。

4) 冷凍サイクルと空調について

 エアコンによる冷房や暖房は,室内の空気を室内側の熱交換器に送風機で風を送り行います。
 冷房のときには,室内の熱交換器内を通る冷媒が低温であり,そこを通る風は冷やされ,暖房のときには室内熱交換器を通る冷媒が高温であるので,そこを通る風は暖められます。冷房時,暖房時の概要は図1.5および図1.6のとおりです。

  図1.5 冷凍サイクル(冷房運転時) 図1.6 冷凍サイクル(暖房運転時)
  図1.5 図1.6

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