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第4章 セントラル空調機器のしくみ |
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4.3 空調制御システムとその制御機器 |
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4.3 空調制御システムとその制御機器
前項でも記載しましたが,一次側熱源機で作られた冷温水や蒸気を使い,室内の空気を冷やしたり温めたりする機器が二次側空調機です。二次側空調機で部屋の空気調和を行う場合,部屋の温度は外気の温度や太陽の光などの変動や部屋に在室する人員,その他室内の照明他発熱物などの変動が外乱として加わります。この外乱によって変動する負荷を自動的に調整する必要があり,これを調整するのが自動制御です。
自動制御の目的は4つです。
図3.1に二次側空調機関連の設備と制御機器の関係を示します。これらに使われる各種の制御機器及びその動作について以下に記載します。
図3.1 セントラル空調設備の制御設備
(1) 自動制御の制御動作について
空調設備に使用される制御機器は,その設備の規模,性質,要求される精度などからどのような制御をすればよいかが決まります。その制御は制御機器の動作により決まりますが,制御動作には,二位置制御,単速度制御,多位置制御,比例制御,比例積分制御,比例微積分制御などがあります。
この制御の違いを以下に説明します。
1) 二位置制御
二位置制御は,ON/OFF制御とも呼ばれ,設定した二つの値の間で運転したり,止めたりします。
二位置制御は,制御精度をあまり要求されない小規模で比較的安定した制御に使用されることが多く見られます。
例としてサーモスタットによる室温制御と制御曲線を下記に示します。
図3.2 二位置制御による温度変化と制御動作
2) 単速度制御
単速度制御は,フローティング制御とも呼ばれ,二位置制御を二段に組合せたもので,二段の途中にどちらの制御にも動作しない中間帯(不感帯とも言います)を設けます。
例えば弁やダンパを全閉又は全開の位置だけでなく,その中間の位置でも制御信号が切れた瞬間の位置で停止し,その後の調節器の指示により開閉いずれの方向にも動作させることができます。
図3.3 単速度制御(フローティング制御)
3) 多位置制御
多位置制御は,通常ステップ制御と呼ばれます。多位置制御は,二位置制御を何段階にも組合せたもので,例えば多段の電気ヒーターを順次入,切し室温変化をゆるやかにするのに使われます。
図3.4 多位置制御
4) 比例制御
比例制御は,P制御(Proportional Action)とも呼ばれ,目標値と計測値の偏差(違い)に比例した動作をします。二位置制御よりも精度の高い制御です。
比例制御の特徴は,負荷の変動があっても安定した制御が得られることです。この特徴から,一般事務所など精度をあまり要求されない室温制御などには最も一般的に使用されています。
図3.5 比例(P)制御の動作
5) 比例積分制御
比例積分制御は,PI制御(Proportional Integral Action)とも呼ばれ,目標値と制御量に違いが生じるとその差の大きさに応じた速度で偏差(違い)を修正し,偏差を“0”にするような動作をします。
PI制御は,精度が要求される制御に使用されますが,むだ時間(=dead time,入力信号が変化してから出力信号の変化が認められるまでに経過する時間を言います。)の大きい制御に使用しますと振動を発生する性質を持っているため,むだ時間が小さい液体の圧力や流量の制御に適しています。
図3.6 比例積分(PI)制御の動作 | 図3.7 比例積分(PI)制御の応答状況 | |
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6) 比例微積分制御
比例微積分制御は,通常PID制御(Proportional Integral Derivative Action)と呼ばれています。比例動作,積分動作,微分動作を組合せたもので,操作量が変化速度に比例する動作をします。制御の過渡的な特性を早く安定させ,他の制御では目標値に到達しても若干オーバーするような動作をしますが,PID制御ではこの動作を出来るだけ少なくする制御を行います。例えば,風量を増加させる際に,設定値を若干オーバーした時点ですぐに設定値への修正ができ,むだ時間を極力抑え,安定した制御を行えるようにします。
図3.8 比例制御・比例積分制御と比例微積分制御の応答状況
(2) 制御機器について
空気調和設備の制御機器に使われる,制御の動作について,前段で述べましたが,実際のセントラル空調に使用される制御機器について,以下に具体的に説明します。
なお,制御機器には,構造面から,機械式の制御と電子式の制御があり,これを含めて説明します。
1) 温度制御について
温度制御を行う機器は,通常サーモスタットと呼ばれています。
サーモスタットは,制御をするところの温度を測定する感温部と,測定した温度を感知し空調機器等を制御する接点部分から構成されており,住宅用エアコンや業務用エアコンなどは,感温部と接点部が分離されていますが,セントラル空調設備では,これらがコンパクトなケースに組込まれているものが多く見られます。これをルームサーモスタットと呼びます。ルームサーモスタットは,空調をする室内に設置され,室内の温度を直接感知し,空調機を制御します。
機械式のサーモスタットの場合は,感温部にベローズを使用した二位置式やポテンショメータ(温度変化を抵抗値の変化に変換する機構)を使用したPI制御式のものがあります。
電子式のサーモスタットは,感温部に白金,銅,ニッケルなどを検出素子にしたサーミスタが一般的に使われています。電子式サーモスタットは,応答性が速く,制御範囲を大きくでき,逆に制御差(ON−OFFの差,ディファレンシャルともいいます)を小さく設定することもできます。最近は,住宅用エアコンや業務用エアコンに電子式サーモスタットが多く使われています。
図3.9 二位置式ルームサーモスタットの構造 | 図3.10 PI制御式ルームサーモスタットの構造 | |
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図3.11 電子式サーモスタットの本体とセンサー
ルームサーモスタットの設置場所は,室内の平均的な温度を感知できるような場所,通常,床面から1.2m〜1.5mの高さの壁面で,直接風や熱の影響を受けにくい場所を選びます。
ルームサーモスタットの他にダクト内に取付け,リターン空気の温度を測定し,吹出し空気の温度や空調機の運転をコントロールするダクト用サーモスタットや冷温水配管内に設置し,冷温水の温度を感知し,空調機や熱源機の運転をコントロールするものもあります。
図3.12 ダクト用サーモスタットの例 | 図3.13 挿入形サーモスタットの例 | |
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2) 湿度制御について
空調では,温度の制御と同時に湿度の制御も重要な制御の項目です。室内の湿度が低くなると,在室者の健康面の問題,室内にある種々のものの変形などが発生することもあり,ひどくなると,部屋の壁などに隙間ができ,空調に影響がでることも考えられます。
このためには,室内の湿度をきめ細かく測定し,湿度を適度に維持することが大事です。 このために,湿度調節器(ヒューミディスタット)があります。
機械式のヒューミディスタットは,毛髪やナイロンリボンなどが湿度の変化に対して伸縮する性質を利用して,感湿部に用い,この伸縮量を拡大して制御の接点を動作させるようにしています。動作には,サーモスタットの項でも記載しましたが,二位置式制御やPI制御があります。
電子式のヒューミディスタットは,毛髪やナイロンリボンの代わりに,湿度の変化に対応して電気抵抗が変化する感湿素子をセンサに使用します。素子としては 塩化リチウム,高分子膜,セラミックなどがありますが,素子の特性から湿度の検出範囲は30%〜90%が一般的です。
センサは図3.15に示すように通気のよいケースに入れ,前項で記載したルームサーモスタットと同様の壁面に取りつけたり,還気ダクト内に挿入したセンサで湿度を検知し,加湿器や加湿用電磁弁などを制御します。
図3.15 電子式ヒューミディスタットの本体とセンサ,ダクト挿入形
(3) 圧力制御
圧力制御を行う機器は,圧力調整器と呼ばれ,住宅用エアコンや業務用エアコンでは,冷媒回路の圧力を検知してエアコンの発停を行います(安全装置)。セントラル空調設備では,プレッシャスタットとも呼ばれ,冷温水・蒸気や空気の圧力や差圧を測定することにより,流れの制御や警報回路に使用します。正確な圧力を測定するためには,できるだけ乱流を避けるために,前後に長い直管部が必要です(上流側は配管径の5倍以上,下流側は10倍以上の直管が好ましい)。
圧力調整器にも,二位置式,多位置式,PI制御等があります。図3.16にはPI制御の外観を記載します。
図3.16 圧力調整器
(4) 冷温水・蒸気の制御(つづき)
冷温水や蒸気の流量調整や流量の過不足による警報指令に対応するバルブ類です。
1) 電磁弁
電磁弁は,電磁コイルの励磁力により開閉するON−OFF弁で,サーモスタットやヒューミディスタットからの指令により,冷温水などを流したり止めたりします。作動方式別に直動形とパイロット形があり配管径1/4インチ程度の小口径では弁前後の差圧が無くても作動する直動形,それ以上の場合は小さな磁力で大きな口径を開閉させるパイロット形を使用します。取付け時には本体に表示された矢印方向に流体が流れるように入口・出口に注意すること,電圧の定格を守るなどの注意が必要です。
図3.18 直動形電磁弁の外観例とパイロット形の内部構造
2) 小形電動弁
冷温水や蒸気配管の途中に取付け,流れを止めたり(二方弁),流れの方向を変えたり(三方弁)します。弁の開閉は同期モータで駆動させます。弁の開閉速度は非常に緩やかで開閉時の作動音は小さく,ウオーターハンマーの現象も起きません。主としてファンコイルユニットの冷温水回路に使用されます。
図3.19 小形電動弁の内部構造と作動方向 | |
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バルブ用 | ダンパ用 |
3) コントロールモータ
コントロールモータは,サーモスタットやヒューミディスタットからの指示でモータバルブやダンパを動かすために用いられます。バルブ用はモータの回転運動を制御弁の直線運動に変えるためラックアンドピニオンを備えており,ダンパ用は回転角度可変形や回転角度90°のダンパ直付けもあります。電源が遮断されたとき安全側に,つまりバルブやダンパを閉める方向に回転させるスプリングリターン付きも使われます。通常モータはバルブやダンパと一体になっています。
図3.20 コントロールモータとダンパリンケージ | |||
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バルブ用 | ダンパ用 | ダンパリンケージ | ダンパとモータの取り付け |
4) モータバルブ
モータバルブには,二方弁と混合三方弁があり,熱源機から供給された冷温水や蒸気を制御します。弁の構造で単座弁と複座弁があります。
単座弁は1つのシートと1つのプラグで構成されており,差圧が直接弁シートにかかるので大口径弁や大きな差圧のかかる弁には使用できませんが,流体遮断能力が比較的高いという特長があります。
複座弁は1本の弁棒に2つのプラグが取付けられており,上部プラグと下部プラグに流れる流量がほぼ同量になるように設計されています。そのため差圧は互いに打ち消しあう方向にかかり,その力の平衡により流量制御を比較的小さな力で行える特長があります。しかし遮断能力は単座弁ほどではなく多少の洩れが生じます。
図3.21 単座二方弁の構造 | 図3.22 混合三方弁の構造 | 図3.23 複座二方弁の構造 |
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5) 流量スイッチ
流量スイッチは,フロースイッチとも呼ばれ,冷温水配管の途中に取付け,冷温水の断水や減水をパドル(水かき)で検知し,熱源機を停止し,故障を未然に防ぎます。大流量の制御用としては使いやすいのですが,高精度に制御する用途には向いていないので,その場合は前に説明した圧力スイッチを使用します。
図3.24 流量スイッチの外観
6) 制水弁(圧力式)
ウオータチリングユニットや遠心式冷凍機,吸収式冷温水機の冷却水は,通常,冷却塔から循環されます。制水弁は冷却水配管に取り付けられ,熱源機の高圧圧力を感知して,高過ぎれば,弁を開き給水量を増加させ,高圧圧力を正常に戻します。また,低すぎる場合は,弁を閉じる方向に作動して,給水量を減少させます。図3.25は圧力式制水弁と温度式制水弁の外観ですが,温度式は圧力導入口に感温部を取付けた構造です。
図3.25 制水弁の外観 | |
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圧力式 | 温度式 |
(5) 送風系統の制御機器
1) CO2ガス濃度計
CO2ガス濃度計は拡散式(非分散型赤外線吸収式による検知方式)と吸引式(赤外線分析方式による検知方式)があります。室内用は人の呼気のかかりやすい床上1.8m以下の場所や燃焼器具の排気口の近くを避けて取付けます。還気ダクト内に取付ける挿入形もあり,空気中のCO2濃度に比例した信号を出力しダンパモータを制御し外気取り入れ量を調節します。
図3.26 CO2ガス濃度計(拡散式)の外観
2) モータダンパ
ダクト内に組み込まれたダンパの遮蔽板の開度を前述のダンパ用コントロールモータで変えて風量調節を行います。ダクトの形状に合わせて丸形と角形があります。ダンパの全閉から全開までの回転角度は90°であり,ダンパモータの回転角度は0〜160°です。この角度の変換をしながらダンパモータとダンパを連結させるものが,ダンパリンケージ(図3.20参照)と呼ばれる連結器です。
3) 定風量CAVユニット
CAV(constant air volume)ユニットはダクト内に組み込まれ,室内の熱変化を感知して送風温度を変えるもので,送風量は一定です。人間や照明などの変動が少ないところに使用されます。
4) 可変風量VAVユニット
VAV(variable air volume)ユニットもダクトの中に組み込まれるもので,省エネルギー化を進め,かつ空調の質を低下させないため室温の変化により送風量を調整する空調方式です。室温の変化をルームサーモスタットやVAVユニットに内蔵のサーモスタットで捉えて風量調節します。
(6) インターロック回路について
自動制御機器には室温等の制御をするコントロール用機器と,エアコンなどの空調機器の安全を確保する保安用機器が有ります。しかしエアコンなどを安全に使用するためには,機器の運転順序を間違えないようにすることが非常に大事なことで,この運転順序を規制する回路を「インターロック回路」と言います。
水冷式エアコンの場合,凝縮器に冷却水が流れていないと圧縮機で圧縮された高温・高圧の蒸気が凝縮器で凝縮されず冷媒の温度は瞬く間に上昇し,高圧圧力スイッチが作動し,運転停止してしまいます。これを防ぐためには,事前に凝縮機に冷却水を通水しておかなくてはなりません。
そのためには,運転制御で圧縮機の運転を始める前に,必ず冷却水のポンプが運転されている必要があります。図3.27に水冷式エアコンのインターロック回路を示します。
ポンプ用の電磁開閉器のコイル(52T)に通電されていないと,押しボタンスイッチ(PBS)を投入しても圧縮機運転コイル(52C)に通電されず,圧縮機は運転できないことが分かると思います。このインターロック回路が空調機器の運転制御には不可欠で,セントラル空調システムにおいても一次側熱原機を運転する前に,冷温水用ポンプを運転し,冷温水系統の電磁弁などの弁類を開け,さらに二次側空調機器の送風機の運転を行った後,一次側熱源機を起動します。
このように,冷凍空調設備は各機器を安全・確実に経済的に運転するために,各々の機器や制御機器を電気的に連携させて起動や停止を行っています。
図3.27 水冷式エアコンのインターロック回路図
(7) 空調用自動制御機器の保守点検
空調設備を自動制御機器でコントロールする目的は,
などです。このためにも制御機器類の保守管理は大切です。本体の塵埃除去及び外観点検をはじめ,日頃の保守点検で事故発生を未然に防ぎ,空調装置や制御機器の寿命を延ばし,さらに快適環境の中で作業能率向上にも繋がります。
1) 電気式制御機器の点検項目
a.サーモスタット,ヒューミディスタット,圧力スイッチなど
イ.ポテンショメータの清掃,ワイパ接触圧の点検
ロ.湿度エレメントの点検
ハ.標準計器による動作点検,比例帯,ディファレンシャルなどの機能点検調整
ニ.機器取り付け状態の点検
ホ.接続端子のゆるみ点検 などb.コントロールモーター類
イ.伝導部の要所に給油,動作点検
ロ.モータとバルブの取付状態の確認
ハ.モータ内部ポテンショメータ,ワイパ機構の清掃点検調整
2) 電子式自動制御機器の点検項目
a.センサー部
イ.エレメントの特性チェック
ロ.接続導管内の清掃,洩れチェックb.コントローラ部
イ.増幅部の特性チェック
ロ.標準計器によるゼロ点調整
ハ.設定値,比例帯,積分,微分,ディファレンシャル等の調整
ニ.接続端子のゆるみ点検 など
3) 制御弁の点検項目
イ.弁本体の取り付け方向の確認
ロ.弁本体のストローク点検
ハ.グランドパッキン点検,増締め
ニ.全閉時の洩れチェック
ホ.電磁弁の場合,入り口ストレーナのチェック,流れ方向の確認 など
[担当:高橋真樹]
【第4章参考文献】
1)「技術教育資料」 (株)日立空調システム
2)「社内教育用資料」(株)鷺宮製作所