基礎知識

第6章 エアコンと電気

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6.5 インバータ制御

(1)インバータについて
 インバータ(Inverter)は,コンバータ(Converter:変換器・交流を直流に変換する)に対する用語で,直流を交流に変換する装置のことをいいます。一般的には,出力(周波数又は電圧)を可変できる装置を総称してインバータと呼んでいます。
 図6. 19 に示すように,商用交流電源を直流に変換する整流回路,直流源より三相交流波形を作るスイッチング回路,スイッチング回路を駆動するベース(ゲート)ドライブ回路,そしてドライブ信号を形成する演算部により構成されます。
 図6. 19 の整流回路は倍電圧整流回路で,AC 100 V 電源入力の製品に使用されます。これは,高電圧低電流にすることで,整流回路,スイッチング回路での電力損失を低減させる意味があります。単相 AC 200 V,三相 AC 200 V の電源入力の製品は,一般的な整流回路が使用されます。

図6.19 インバータ回路構成

 エアコンでは,圧縮機駆動にインバータを用いることにより,例えば,運転開始時の室温と設定温度との温度差が大きい場合に,高速回転で急速に温度を変化させ,短時間で設定温度への到達を可能にし,また,温度コントロールにおいては,圧縮機の運転・停止を少なくし,負荷に合わせて圧縮機の周波数を制御できるためムラのない快適な空調を提供できます。また,運転・停止が少なく,負荷に合わせた運転を行うことで,効率が良く,省エネルギーに貢献しています。

(2)PAM と PWM
 インバータの制御方式には,PAM(Pulse Amplitude Modulation)と PWM(Pulse Width Modulation)があります。
 PAM 方式は,直流電圧の大きさを整流回路側で制御し,スイッチング回路側では出力周波数のみ制御する方式です。図6. 20 は昇圧形 PAM インバータの制御概略図です。PAM 回路のスイッチング素子を高速でスイッチングすると,スイッチング素子が ON した時は(A)の経路で電流が流れてリアクトルに電磁エネルギーを蓄積し,スイッチング素子が OFF した時は(B)の経路で電流が流れて蓄えた電磁エネルギーをコンデンサに引き渡します。ON/OFF の比率により直流電圧を昇圧することができます。この回路方式はアクティブ方式と呼ばれ,入力力率を改善すると同時に直流電圧制御を行うことで省エネルギーが図れるため,エアコンの性能向上に大きく寄与しています。

図6.20 PAM回路構成

 また,簡単な回路方式で入力力率を改善し,昇圧機能を有して直流電圧制御を行うことができる方式として部分スイッチング方式があります。部分スイッチング方式はリアクトルに安価な珪素鋼板のリアクトルを使用し,整流ブリッジとスイッチング素子の補償回路(交流スイッチング回路)を追加した回路で構成されます。入力電圧のゼロクロスを検出し,そこから交流スイッチ回路を一定時間オンすることで,入力電流の通電角を広げます。スイッチング素子が ON した時は(A)の経路で電流が流れてリアクトルに電磁エネルギーを蓄積し,スイッチング素子が OFF した時は(B)の経路で電流が流れて蓄えた電磁エネルギーをコンデンサに引き渡します。シンプルかつ安価な回路構成で省エネルギーが図れる方式として,エアコンに使用されています。

図6.21 部分スイッチング回路構成

 PWM 方式は,スイッチング回路側で電圧出力の周波数とともに大きさも制御する方式です。PWM 方式の出力信号は,PWM 周期を決める三角波と正弦波信号の比較結果により各相の正負のスイッチング素子を ON/OFF するものです。図6. 22 に三相変調方式の動作波形を示します。インバータの出力周波数は,正弦波信号の周期と振幅に応じて正弦波上に変調された出力波形を得ることができます。この電圧出力によりモータを駆動します。

図6.22 三相変調方式の動作波形

[担当:古結勝美]

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