このたび、資源エネルギー庁長官賞を、当工業会会員の三菱重工サーマルシステムズ株式会社が受賞しましたので、その詳細についてご紹介します。[製品・ビジネ
経済産業大臣賞 ダイキン工業株式会社
No.650 2017年4月
1.開発の背景
日本の業務部門別のエネルギー消費量は1990年以降、産業部門をはじめ、家庭、運輸等殆どの部門において二酸化炭素の排出量が減少傾向となっていることに対し、オフィス、店舗を含む「業務その他部門」では9.2%増加した。更に詳しく分析すると、オフィスビルや飲食店店舗での電力消費量のおよそ半分を空調機が占めることがわかった。
一方で、空調機器の省エネ性能の変化をみると当社のビル用マルチエアコンの現行モデルは15年前のインバータ空調機に対して消費電力量の約60%、5年前のモデルと比べても約20%の低減を実現している。現行モデルに搭載した最新技術を既設空調機に導入できれば、国内市場全体でエネルギー効率の向上とお客様の省エネニーズを同時に実現できると考えた。
2.商品概要
既設ビル用マルチエアコン向け『レトロフィットシステム』は、5年以上経過した当社ビル用マルチエアコンの既設機において、圧縮機と制御ソフトを省エネ性の高い最新仕様に現地で交換することで、最大15%の省エネ性向上を実現するサービスである。
空調機器の性能維持、故障リスク抑制等、従来型空調メンテナンスのメリットを実現すると同時に、比較的安価に既設機の高効率化が図れる点が特長。パッケージエアコンにおいては世界は初となるメンテナンス商品であることに加え、新型空調機への更新に比べ、交換する部品が少なく、作業の時間も短い為、コスト、利便性におけるメリットが大きいことが評価され、平成28年度省エネ大賞経済産業大臣賞を受賞した。
様々な試行錯誤の結果、空調機の頭脳であり、省エネ性を左右する「制御基板」と心臓に相当する基幹部品の「圧縮機」を最新型に交換する新しい技術を確立した。制御(ソフト)の面では、当社独自の自動冷媒温度制御を搭載し、最適な冷媒温度にコントロールすることで無駄な発停運転を抑制した。基幹部品(ハード)の面においては、冷媒の圧縮漏れと摺動抵抗を同時に低減したハイメカスラスト機構の新型スクロール圧縮機を搭載したことで低負荷運転時の高効率化を実現した。
当社新型ビル用マルチエアコン(2015年発売 VRV Xシリーズ)に使用される自動冷媒温度制御を搭載した。自動冷媒温度制御とは屋外の気温から空調機の必要能力をリアルタイムに把握し、システムに最適な冷媒温度へ変更する事で圧縮機回転数を抑え、効率を向上させる技術。更に、最適な冷媒温度にすることで吹出し温度の冷やし過ぎ、暖め過ぎを防いで室温変化の少ない空調を実現し、快適性と省エネ性を両立させた。特に冷房時、負荷が小さくなるシーズンオフでは、蒸発温度を上げて機器の発停止を抑制することで実省エネに大きく寄与する。
従来のスクロール圧縮機に対して、スクロールを高精度加工することで冷媒の圧縮漏れを低減し、また当社独自のハイメカスラスト機構の採用によりスクロール摺動部の摩擦を低減することで高効率化を実現した。従来のスクロール圧縮機は冷媒の圧力差だけで可動スクロールを固定スクロールへ押し付けていたため摺動抵抗が大きく、効率向上の妨げとなっていた。新型圧縮機では固定スクロール部に設けた溝へ潤滑油を導き、油圧で可動スクロールを押し返すことで冷媒の圧縮漏れを防止する為に必要な最小の押し付け力を確保するとともに摺動抵抗を低減した。
これまでレトロフィットシステムを異なる地域や業種で省エネ効果の検証を実施してきた。いくつかの導入物件を計測した結果、実使用シーンにおいては設計通りの省エネ効果が確認できた。
(導入前:2015年4月~11月 導入後:2016年4月~11月)
導入後の消費電力量は約22%低減
(導入前:13678.9Kwh ⇒導入後:10,727.5 Kwh)
物件2)東京都 一般事務所
(導入前:2015年4月~8月 導入後:2016年4月~8月)
導入後の消費電力量は約19%低減
(導入前:320,705Kwh ⇒導入後:269,986Kwh)
物件3)新潟県 娯楽施設
(導入前:2015年9月~11月 導入後:2016年9月~11月)
導入後の消費電力量は約13%低減
(導入前:2364.8Kwh ⇒導入後:2047.0 Kwh)
本商品発売以来、「省エネ性」「省工事」「低コスト」が認められ、特にテナントビルの管理者、老人福祉施設や病院関係者など入居者への影響を最小限に抑えたいお客様にとって、設備を長時間止めずに、省エネ性と快適性が両立できることが評価された。平成29年2月現在、レトロフィットシステムは既に、300以上の物件に導入された。将来的には、国内の当社既設ビル用マルチエアコンの市場ストックの3割を目標にレトロフィットシステムを展開していく。
このように従来の発想にとらわれない省エネサービス、ソリューションビジネスが、技術の進歩、市場ニーズの変化とともに今後もますます増えていくと考える。
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