東芝キヤリア 世界初の業務用・家庭用インバータエアコンが「IEEEマイルストーン」に認定

印刷

No.686 2022年9月

東芝キヤリア株式会社が世界で初めて開発、量産を行った業務用および家庭用インバータエアコン(スプリットタイプ)が、世界最大の電気・電子分野の専門家組織であるIEEEから「IEEEマイルストーン」に認定され、2021年3月に認定の銘板が贈呈されましたので、あらためてご紹介いたします。


1.はじめに
東芝キヤリア(株)富士事業所(静岡県富士市)の正門を進み、左側の建物沿いにIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)マイルストーン認定の記念碑がある。(写真1、写真2)これは、世界初の業務用・家庭用インバータエアコンがIEEEマイルストーンに認定され、昨年(2021年)3月にIEEE主催によるマイルストーン贈呈記念式典が開催された際に設置したものである。

IEEEマイルストーンは、世界最大の電気・電子関係の学会であるIEEEが、電気・電子・情報技術の関連分野において達成された画期的なイノベーションの中で、開発から少なくとも25年以上経過し、社会や産業の発展に大きく貢献したと認められる歴史的業績を認定する制度である。

これまで、古くは「ボルタの電池の発明」や「マクスウェルの方程式」、「半導体集積回路」など、名だたる発明の数々が認定されており、インバータエアコンは「Inverter Air Conditioners, 1980-1981」の登録名称で、世界で215件目、日本国内では39件目、また、空調業界においては初めての認定となった。



写真1:マイルストーン受賞記念碑
 



Inverter Air Conditioners, 1980-1981

Toshiba developed and mass-produced the world’s first split-type air conditioners with inverter-driven compressors for commercial and residential applications in 1980 and 1981, respectively. Compact and robust inverters using power electronics technologies allowed variable-speed control of the compressors for optimized air-conditioning operations, with significantly improved comfort and energy efficiency. These innovations led to widespread use of inverter air conditioners across the world.


写真2:プラーク(記念の銘板)と記載内容


2.世界初のインバータエアコン
1980年に世界初のインバータエアコンが実用化されてから40年以上が経過した。それまでの圧縮機は、商用電源周波数(50Hzあるいは60Hz)での一定速度運転を行い、目標設定温度を基準に運転/停止を繰り返すものであったが、これをインバータ化することで、設定温度までの到達時間が短くなり、設定温度到達後は圧縮機の回転数を落として運転することで快適性と省エネ性が飛躍的に向上した。

写真3は、1980年12月に商品化された業務用インバータエアコンである。本製品は床置形のエアコンで、室内機の中にインバータ制御器とレシプロタイプの圧縮機が内蔵されており、室外機は熱交換器だけの構成であった。また、写真4は1981年12月に商品化された家庭用インバータエアコンである。現在の主流であるスプリットタイプの構成で、室外機にインバータ制御器とロータリ圧縮機が搭載されている。


写真3:世界初の業務用インバータエアコン(RAV-46HTY) 



写真4:世界初の家庭用インバータエアコン(RAS-225PKHV)



写真5は家庭用インバータエアコンに搭載されたインバータ制御器である。1981年当時は、現在のように圧縮機を駆動するパワー半導体も集積化されておらず、6個の大電力トランジスタを採用していた。また、当時は高機能マイコンも存在していないため、制御回路にてディジタル信号を作り正弦波PWM(Pulse Width Modulation)制御を実現していた。以降40年間、インバータ回路を構成する電気・電子デバイスの急速な進歩と、市場からの快適性、省エネ性要求、そしてエアコンの普及率増加に伴い導入された省エネ規制などが相まって、インバータ装置の性能は飛躍的に向上してきた。


写真5:家庭用エアコン用インバータ制御器



3.IEEEマイルストーン認定の記念式典
2021年3月16日にIEEE主催のマイルストーン贈呈式典として、贈呈式と受賞記念講演会を実施された。また、贈呈式終了後、社内向けイベントとして「世界初インバータエアコンの開発秘話~開発OBとの対談~」と題したパネルディスカッションを開催した。贈呈式では、IEEE名古屋支部Chairの片山正昭氏より主催者挨拶を頂き、IEEE前会長の福田敏男氏よりIEEE本部の代表として認定のプラーク(記念の銘板)が授与された。(写真6)また、福田氏からは、快適性とエネルギー効率を向上させた当該製品の技術成果と、世界に貢献したことへの社会的意義を高く評価する旨のご挨拶もいただいた。贈呈式終了後、引き続き受賞記念講演会を開催。IEEE Japan Council History Committee Chairの白川功氏より特別講演をいただいた。(写真7)



写真6:贈呈式(左からIEEE名古屋支部Chair 片山 正昭氏、
IEEE前会長 福田
敏男氏、当社社長 久保 徹、当社取締役 ウーン ウィーチン)




写真7:.受賞記念講演会
(IEEE Japan Council History Committee Chairの白川功氏)



その後、社内向けイベントとして、「世界初インバータエアコンの開発秘話~開発OBとの対談~」と題したパネルディスカッションを開催。(写真8)世界初のインバータエアコン開発に携わったOBの方々に登壇いただき、開発秘話や苦労話などを紹介いただいた。当時、トップダウンによるプロジェクト体制にて開発推進したが、性能、信頼性、コスト目標に悩む日々だったとのこと。その中で、先見の明をもった上長の強力なリーダーシップに背中を押されたこと、ゴールが見えなくても一歩目を踏み出す勇気が大切であること、技術開発をやるなら楽しんで、そして1番を目指してほしいとのことなど、現在の技術活動にもそのまま当てはまる示唆に富んだ内容であった。また、Q&Aセッションでは、世代を超えた技術者どうしの質疑応答となり、多くの技術者が世界初インバータエアコン開発のDNAを継承し、次の価値創出につなげていく決意を新たにした。なお、この様子は動画撮影され、海外拠点でも公開したほか、当社の新人教育の一環として活用している。



写真8:
開発OBによるパネルディスカッション



4.おわりに
気候変動の影響緩和として、エネルギー使用量の削減があげられる。当工業会の統計データ「地域別インバータ&冷媒種比率」によると、2021年における世界のエアコンのインバータ化率は、日本、欧州、中国と比べ、東南アジア、中東、北米はまだ低く、これを引き上げ地球環境に貢献していくことが我々の使命となっている。また、地域のニーズに合った製品開発を推進すると同時に、低GWP冷媒の採用も求められてくる。

今後は継続した機器の高効率化に取り組む一方で、周辺機器との連携や建物との組合せなど、システムとしての省エネ性向上にも注力していく。


以上
Topへ戻る