環境への取り組み

地球温暖化対策の中期目標に関する見解

京都議定書に続く2013年以降の次期枠組みについて、政府は2020年をめどにした温室効果ガス排出量の中期目標を6月までに決定するとしていますが、この中期目標についての意見募集が4月17日から5月16日まで行われました。中期目標の選択肢としては以下の6案があげられています。

(1)2005年比−4%、1990年比+4%

(2)2005年比−6〜−12%、1990年比+1〜−5%

(3)2005年比−14%、1990年比−7%

(4)2005年比−13〜−23%、1990年比−8〜−17%

(5)2005年比−21%、1990年比−15%

(6)2005年比−30%、1990年比−25%


これに対し、日本冷凍空調工業会としての意見をまとめましたので、紹介します。


地球温暖化対策の中期目標に関する見解
平成21年5月
社団法人日本冷凍空調工業会


日本冷凍空調工業会および会員各社は、冷凍空調機器というエネルギー消費の多い機器を製造・販売しているという自覚を持ち、省エネルギーについては世界のトップレベルの製品を供給し続け、地球環境保護には最大限の保護を積み重ねてきたと自負している。しかし一方では、それら機器で使用している冷媒の温暖化効果が問題視されている。中期目標の検討に当たり、ここでは、主としてその問題について意見を述べたい。

日本冷凍空調工業会および会員各社では、世界に先駆けて、オゾン層を破壊しないHFC(代替フロン)冷媒への転換をほぼ達成したところである。しかし、オゾン層保護のためのHFC冷媒への転換により、今後、HFC冷媒の排出量の増加が避けられず、その大気排出抑制が求められている。省エネルギー性能の向上とHFC冷媒の使用とは、技術的に相互に深く関係しているため、双方の問題の改善は極めてハードルの高い事態であるが、業務・民生分野において、冷凍空調機器が占める重さを真摯に受け止め、最大限の努力を進めていく考えである

中期目標に関するスタンス

  1. 政府から提示された選択肢についての基本的考え方は、各国の削減費用負担を均等にするケース(1)あるいはケース(2)が妥当と考える。

    • 日本はすでに世界最高水準の低炭素社会を実現しており、ある時点からの一律の定率削減などは公平を欠くものと考える。
  2. HFCを使用する機器については、HFC対策とエネルギー起源CO2分野との整合的な議論が必要である。

    • これまで、ヒートポンプ給湯器・大型冷凍機・家庭用冷蔵庫などにおいて自然冷媒の適用を積極的に行ってきた。HFCを使用する機器は依然として多いが、代替冷媒がない、あるいは省エネ性能などとの関連からやむを得ずHFC冷媒が選択されているものである。
      技術的な裏付けを持たない性急な脱HFC化は、省エネ性能を低下させ、エネルギー起源CO2分野の排出量を増加させる恐れがある。また、販売される機器のCOP値(成績係数値)のさらなる向上には、技術的にはHFC充てん量の増加が必要であるため、将来のHFC排出量が増加することにも留意が必要である。
      目標値の設定においては、双方が整合的な内容となるよう、LCCP(Lifecycle Climate Performance)を含め、科学的に合理的な内容としていただきたい。
  3. 冷媒代替については、ユーザーなどの安全性に関する適切な配慮が必要である。

    • HFC冷媒は、温室効果は高いものの、低い毒性・不燃性から安全性に優れている。省エネに加え、安全性も確保された代替物質の研究開発を重要課題として全力で進めていくが、国民生活において広汎に使用されている機器であることに鑑み、安全性のクリアが前提となることには留意いただきたい。
  4. 輸出産業としての競争力への配慮、雇用への配慮が必要である。

    • わが国の冷凍空調産業は、単に国内だけではなく、世界に機器を供給しており、国内の関係雇用者数も相当数にのぼる。世界各地の市場においては、他の先進国メーカーや途上国メーカーの製品と競合していることから、公平な競争環境の確保が必要である。
    • 低温室効果の冷媒が適用可能な機器のうち、特に近年になり技術が開発されつつある一部の機器には、依然としてHFC使用機器と比較して高価な機器も多い一方、省エネと異なりユーザーに導入の経済的メリットが生じない。低温室効果機器の早期の導入のためには、ユーザーの経済負担低減のための導入補助などの政策的支援が必要である。
  5. 実効性が確保された達成可能な内容とすることが必要である。

    • 業務用機器における廃棄時の冷媒回収率目標(60%)の達成などに向けて、当会としても「見える化」(CO2ベースでの注意喚起ラベリング)の導入、回収技術の指導をはじめとして積極的に協力を進めていく考えであるが、当該目標値は、物理的・社会コスト的に達成可能な目標値としてすでに上限にあると考えられる。使用時排出対策を含め、幅広いユーザーの実際的な協力を得ていく観点からも、実施可能な内容とすることが必要である。
    • 省エネによるCO2削減についても、実際の使用環境を反映した合理的な見込みとすることが必要である。冷媒排出についても冷媒HFCの使用時排出率に関する当会の従来見込値と今般の経済産業省調査結果には大きな差異があった。一方、エネルギー消費量についても、温度・湿度・断熱性・運転時間により、極めて大きな差異が生じうる。当会においては、今後、メーカーとして把握可能な限り、さまざまに想定される運転環境を踏まえた平均的な実態の把握・発信に努める予定としているが、既存の省エネ機器による国内の温室効果ガス総排出削減に向けた寄与度の推定においても、上述したように実際の使用状況で達成が可能な見込みとすることが必要である。
    • COP値(成績係数値)のさらなる実性能向上は、機器の実用上のサイズ制約、熱源の制約、運転環境の相違などにより、一定の技術的限界が存在する。わが国製品の多くは、インバータ技術などによりすでに世界最高の水準に達しており、引き続き、性能改善に向けた技術開発に取り組むが、将来の省エネ技術開発による削減寄与を検討する場合には、物理的制約があることに留意して、合理的な削減ポテンシャルを見込むことが必要である。
  6. 業務・民生分野での使用においては、ユーザーたる国民・関係業界の一致した協力が必要である。

    • 冷媒の管理、所期の省エネの実現は、機器を管理・使用するユーザーの協力が必要不可欠である。当会としても広報を進めていくが、地方自治体など行政を含めた関係者の一致した努力が必要である。