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第1章 空気調和のあらまし |
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1.4 「温度を快適にする」ということは |
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空気調和の四要素の一つである「温度」を快適にするためには,温度と熱についての知識が必要となります。
(1) 温度の単位
温度とは,物体の冷温の度合いを表わすのに使われるもので,代表的なものにセ氏温度(セルシウス温度)「℃」と絶対温度(ケルビン)「K」とがあります。
セ氏温度は,1742年スウエーデンの物理学者 A・セルシウスが提案したもので,標準大気圧のもとで,水が凍りはじめる温度を0℃,水が沸騰しはじめる温度を
100 ℃として,その間を 100 等分したものをセ氏(摂氏)1度といい,「1℃」と表示します。
絶対温度は,1848年イギリスの物理学者ロード・ケルビンによって提案されたもので,これ以下の温度は存在しないという「−273.15 ℃」を絶対零度とし,それから上の温度を正の数値で表わすもので,記号は「K」(ケルビン)を用います。
温度の間隔は,セ氏(摂氏)も絶対温度も同じで,下記の関係があります。
絶対温度〔K〕=セ氏(摂氏)温度〔℃〕+ 273.15
国際単位(SI 単位)では,絶対温度は熱力学的に扱う場合の基本単位として使われ,一般的にはセ氏(摂氏)温度が使用されています。
(2) 「熱」と「熱量」
空気調和の四要素の一つ「温度」を制御するということは,言い換えれば「熱」の出入りを制御することと同じです。ではその「熱」とはどのようなものでしょうか。
温かいものと,冷たいものを接触させておくと,温かいものは元の温かさより冷たくなり,冷たいものは元の冷たさより温かくなり,そうして同じ温かさ,あるいは冷たさになります。
この現象を「ある種のもの」が,温かいものから冷たいものに移ったと仮定し,「ある種のもの」をもらえば,温度が上がり,失えば温度が下がります。この「ある種のもの」を熱と呼び,「ある種のものの量」を熱量とよびます。
また,熱は常に温かいものから冷たいものに流れます。今,接触している二つのものが同温度であれば,その間に熱の移動はなく,温度が異なれば,熱は温かいものから,冷たいものに流れます。
SI 単位では,熱量の単位に kJ(キロジュール)が使われます。1kJ は1kW の電力が1秒間に発生する熱量をいいます。以前は
kcal(キロカロリー)が使われていました。1kcal は1kg の水の温度を1℃変化させるのに必要な熱量をいいます。
1kW=860 kcal/h=3600 kJ/h (1kcal=4.186 kJ)
(3) 熱の移動
熱の移動の仕方には,「伝導」・「対流」・「輻射」の3つの形態があります。
・ 伝導 | ― |
金属棒の一端を熱すると,他端もだんだん熱くなるように,熱が物体の内部を移動する状態をいいます。熱の移動する速さは,材質・長さ(厚み・太さ)によって異なります。 |
・ 対流 | ― | 「温かい空気が部屋の上の方に移動し,冷たい空気が床面に降りてくる」,あるいは「お風呂の湯を沸かす時,上の方に熱いお湯が上ってくる」ように,気体や液体が動くことによって熱が移動することをいいます。対流にはこの例のように,同じ物質でも温度による比重の違い(温度が高くなると比重は軽くなります)から起こる自然対流と,送風機やポンプを使って強制的に気体や液体を移動させる強制対流とがあります。 エアコンによる空調の場合は,その中の送風機によって室内の空気を強制的に循環させており,強制対流ということになります。 |
・ 輻射 | ― |
陽射しの中にいると太陽の熱を受けて温かく(暑く)感じるように,離れた物体から直接熱が伝わることをいいます。物体はすべて,黒体輻射と呼ばれる熱線を放出しており,やはり温度の高い方から低い方へ熱を移動します。例えば,暖房された室内で,外気に面したコンクリート壁の近くにしばらく座っていると,室温は高いのに非常に寒く感じることがあります。これは壁の表面温度が室内温度よりかなり低くなっており,人体の表面より輻射によって壁の方に熱が移動しているからです。
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(4) 見える熱「顕熱」と見えない熱「潜熱」
熱は一般的に「もの」の温度を上下させます。そこでものの温度を変える働きをし,普通の温度計で測ることのできる熱を顕熱といいます。
ところが,熱を与えても全然ものの温度が上がらないときがあります。例えば,水と氷の混合物に熱を加えても,氷が溶けきってしまうまでは温度は0℃のままです。これは加えられた熱が,氷が水に変化するために使われたことによります。水が氷になる時や,水が沸騰して蒸気になる時,また,蒸気を冷やして水になる時にも温度の変化はおこりません。このように固体から液体(融解),液体から固体(凝固),液体から気体(蒸発),気体から液体(凝縮)というように,温度計には表れないが,ものの状態が変化する時に使われる熱を潜熱といいます。
(5) 空調機はどのようにして空気を冷やすのでしょうか
空調機は構成的には冷凍機とほぼ同一です。では空気とか品物をどのようにして冷やすのでしょうか。簡単にいえば,「フルオロカーボンやアンモニアのような,蒸発しやすい液体を蒸発させ,その蒸発熱で空気や品物を冷やす」ということになります。
1) |
暑い夏に打ち水をすれば涼しくなる。 |
2) | アルコールを浸した綿で腕をふいた時,涼しく感じるのも同じ理屈です。 |
水やアルコールに限らず,すべて液体が気体になるには,蒸発の潜熱が必要で蒸発温度(沸騰点)が周囲のものより低い場合には,周囲のものから熱を吸収し,周囲のものは冷却されます。
空調機(冷凍機)は,以上のような自然の現象を機械的に行うようにしたもので,フルオロカーボンやアンモニアのような物質(これを冷媒といいます)を,密閉された冷却管の中で蒸発させ,その時必要な蒸発熱を冷却管の外側を通る空気や水などから吸収します。そのため熱を取られた空気や水は,逆に冷やされることになります。(これらは冷凍の原理と呼ばれています。第3章で詳しく説明します。)