基礎知識

第1章 空気調和のあらまし

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1.5 快適な環境とは

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 人がその周囲の環境について,快適あるいは不快だと感じる要素としては,代謝量・着衣量・空気温度・湿度・輻射温度・清浄度・気流などがあります。これらの内,代謝量と着衣量は個々人で違ったり加減のできるものですが,それ以外のものは全体的な雰囲気として快適といわれる状況を作り出す必要があります。これがすなわち1.1項で述べた空気調和の四要素(温度,湿度,清浄度,気流)ということになります。

(1) 人の活動と周囲環境の関係

 人は呼吸をし,様々な活動をします。呼吸によって空気中の酸素を消費し炭酸ガス・水分を排出します。また,常に熱を発散しており汗や臭いも出ます。これらは活動が激しくなるほど量が増加します。これら以外にも,活動することによって塵埃を発生させることにもなります。このように人が居るだけで周囲の環境は変化します。

 1) 人の呼吸による酸素(O2)の消費量と炭酸ガス(CO2)・水分(H2O)の排出量
 成人の場合,1日中寝ているだけで,約7m3/日の空気を吸っています。例えば,1日の内8時間を軽作業(平均呼吸量 20 l/min)に従事し,16 時間を休息(平均呼吸量 10 l/min)していたとしますと,1日の呼吸量は 19 m3 となります。
 これは,ほぼ四畳半の広さの部屋の容積に相当します。また,この時の酸素(O2)の消費量は約 0.9 m3/日,炭酸ガス(CO2)排出量は約 0.8 m3/日,水分(H2O)の排出量は約 0.9 s/日となります。
2) 代謝量(人の発熱量)
 人は絶対安静にしていても,体温の維持や心臓の拍動・呼吸・筋肉の動きなどにエネルギーを使っています。これらのエネルギーは,身体の表面から回りの空気に熱として発散されます。代謝量は人の体表面積(m2)当りで表わし,椅子に静かに座っている状態では58.2 W/m2(50 kcal/h・m2)になります。〔これを基礎代謝と呼び,1メット(met)と表わします。〕日本人の成人の体表面積は 1.4 〜 1.9 m2 で,通常の事務作業では 1.1〜1.2 met(90〜133 W,78〜114 kcal/h)の発熱量となります。人の発熱量は,激しく活動するほど増加します。
3) 人体からの水蒸気の発生  
 人体からは,呼吸の他に汗によって水蒸気が発散されます。その発生量は成人男子が室内温度 26 ℃で事務作業をしている時,約 90 g/h になります。周囲温度が低いと少なくなり,活動が激しくなると増加します。
4) 人はどのように熱を発散しているのでしょうか
 2), 3) で記したように人には発熱や発汗がありますが,これらをどのように周囲の空気に発散しているのでしょうか。熱には顕熱と潜熱があることは既に述べましたが,人体からの熱の発散にもこの二通りがあります。
 顕熱による熱の発散には,対流と輻射によるものがあります。対流による熱の発散は,身体の周囲の空気温度が体温より低い場合,身体に触れた空気は体温により暖められて,比重が軽くなり上昇します。入れ替わりに冷たい空気が身体に接触することになり,これが繰り返されます。気流(空気の流れ)があれば,熱の発散はより促進されます。輻射による熱の発散は,身体の表面温度が周囲の壁面や天井面・床面の温度よりも高い場合,身体よりそれらの面に向かって熱が移動することによります。
 潜熱による熱の発散は,身体から汗が蒸発することによるものと,呼吸によって身体の水分が出ていくことによります。(呼吸により吐き出される空気は,ほぼ水蒸気を一杯含んだ飽和空気の状態になっています。)
 人から発散される熱量の合計は,その人の活動状態によって決まり,周囲の温度にはほとんど関係ありません。しかし,顕熱と潜熱の割合は変化します。周囲温度が高いほど,顕熱が少なくなり潜熱での発散が増加します。

 

(2) 温度・湿度の快適さの範囲

 人が快・不快を感じるのを,温度だけあるいは湿度だけを取り上げて論ずることはできません。温度が高くても湿度が低ければ快適に感じますし,梅雨時のように温度が低くても湿度が高ければ蒸し暑く不快に感じることもあります。このように快適さにとって,温度と湿度は同時に検討することが必要です。
 「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(ビル管法)では,安全衛生面からみた必要条件として,乾球温度で 17 〜 28 ℃,相対湿度で 40 〜 70 %(気流速度 0.5 m/s 以下)と定めています。
 温度や湿度の快適さをいうときに使われる言葉として,不快指数・ヒートショックというものがあります。

不快指数= 0.81×乾球温度+ 0.01×相対温度(0.99×乾球温度−14.3)+46.3

米国気象局では次の式で計算されていますが,計算結果には大差はありません。

不快指数=(乾球温度+湿球温度)×0.72+40.6

不快指数の算出図上記の式で計算された不快指数での判定は,次のようにいわれています。

 

 

(3) 気流の快適さの範囲

 気流とは空気の流れのことをいいますが,身体のまわりに適当な気流があると,人体からの熱の発散を容易にし,より快適さを感じることができます。扇風機にあたって涼しく感じるのは,その風が熱の発散を容易にしているからです。
 人が空気の流れを肌で感じるのは,気流の速さが 0.3 m/s 程度といわれています。気流が早くなりすぎても逆に不快感を感じるため,前述のビル管法では 0.5 m/s 以下に規制されています。最適の気流の速さはその人の活動状況によって異なりますが,一般の事務作業では 0.13 〜 0.18 m/s の範囲で,また,デパート等動きの多いところでは 0.3 m/s をこえて少し気流を感じるぐらいが良いとされています。

(4) 清浄度について

 室内には,いろいろな空気の汚れがあります。これを空気汚染と言いますが,その汚染物質の中で空気調和での除去対象としては,浮遊粉じん,一酸化炭素(CO),炭酸ガス(CO2),臭気,細菌などがあります。

 1) 浮遊粉じん(浮遊じんあい)
 空気中に含まれるじんあい(ほこり)の内,大きいものは時間の経過と共に落下しますが,その直径が 10 μm(1 / 100 mm)以下になると落下せずにいつまでも空気中に漂っています。これを浮遊粉じん又は浮遊じんあいと呼び,これらが人が呼吸することによって体内に取り込まれ,じん肺やぜん息,肺ガンなど病気の原因となることがあります。人は静止していても僅かですが粉じんを出しており,活動が活発になればなるほど粉じんの量(発じん量)も増加します。たばこの煙りも直径 0.2 μm 程度の非常に小さな粉じんで,その臭いと共になかなか除去の困難な物質です。
 浮遊粉じんの量は,空気1m3 中に直径 10 μm 以下の粉じんが何 mg あるかで表わされます。ビル管法によれば,0.15 mg/m3 以下と定められています。
2) 一酸化炭素(CO)
 一酸化炭素は無色無臭の気体で,不完全燃焼した時に発生する可燃性のガスです。このガスは人体にとって非常に有毒で,一酸化炭素中毒の原因となります。一酸化炭素中毒とは,CO が体内に入ると血液中のヘモグロビンと結合して血液中の酸素を著しく減少させ,それによって中枢神経の細胞がやられてしまうことをいいます。軽い場合にはめまい,頭痛,吐き気,ねむ気で済みますが,ひどい場合には昏睡状態やけいれん,運動麻痺,知能障害,記憶障害等に陥ります。
 CO の濃度は百万分率 ppm(parts per millon ― 全体を百万としてそのものが占める割合)で表わされ,ビル管法では 10 ppm 以下と規定されています。
3) 炭酸ガス(CO2
 炭酸ガスも無色無臭の気体で,大気中には自然の状態で 0.03 %(300 ppm)含まれています。CO2 はガスや石油類など物を燃焼させた時に出ますが,人が呼吸をして出す息(呼気)にも約 40,000 ppmもの CO2 を含んでいます。CO2 の濃度が上がると,CO と同様人にとって悪影響が出てきます。例えば,1%程度になるとイライラとするような不快感を感じたり,4〜5%になると呼吸の深さ・回数が増加し時間が長くなれば危険な状態となります。
 ビル管法では 1000 ppm(0.1 %)以下と規定されています。
4) 臭い・細菌
 人から発生する臭い,たばこの煙の臭い,トイレ臭など悪臭といわれるものの希釈・除去,病院のように細菌による感染を防ぐことも空調の対象となります。

 

浮遊粉じんの量

空気1m3 につき 0.15mg 以下
一酸化炭素(CO)の含有率 百万分の 10(10 ppm)以下
炭酸ガス(CO2)の含有率 百万分の 1000(1000 ppm)以下
温  度 1) 17 ℃以上 28 ℃以下
2) 居室における温度を外気の温度より低くする場合には,その差を著しくしないこと
相対湿度 40 %以上 70 %以下
気  流 0.5 m/s 以下


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