基礎知識

第1章 空気調和のあらまし

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1.6 快適な環境の調整方法

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 前項で快適な環境とはどのようなことかを述べましたが,ではその快適な環境を保つためにどのような調整の仕方をしているのでしょうか。温度・湿度・清浄度別にそれぞれの調整の方法の概要を説明しましょう。

(1) 温度(乾球温度)の調整の方法

 部屋の温度(室温)を調整(制御)するためには,温度調節器(サーモスタット)という制御装置を使います。この温度調節器の中身は,その部屋の空気の温度を検知する温度センサー(温度検出端)と,温度センサーの検出した温度と設定された希望温度とに差があれば何らかの信号を出す調節部とからなっています。
 家庭用エアコン(ルームエアコン)や店舗・業務用エアコン(パッケージエアコン)では,この温度調節器はエアコンの室内機側に内蔵されています。そして温度調節器から発信された信号によってエアコンを発停したり,インバータエアコンの場合は比例的に能力を変えることによって室温を制御しています。
 大型ビルに採用されているセントラル方式(第2章で説明します)による空調の場合には,室内に単独に設置された温度調節器からの信号により,2次側空調機(ファンコイルユニットやエアハンドリングユニット)の能力を制御して室温を調整しています。この2次側空調機の能力を制御するには,二つの方法があります。一つは熱源機器から2次側空調機に送られてくる冷温水の流量を変化させたり,停止(バイパス)することによって能力を変えています。もう一つは2次側空調機の風量を変化させることによって能力を変え,室温を制御しています。

(2) 湿度の調整の方法

 湿度の調整には湿度調節器(ヒューミディスタット)が使われています。これは温度調節器と同じように,湿度(相対湿度)を検知する湿度センサー(湿度検出端)と,湿度センサーの検出した湿度と設定された希望湿度とに差があれば何らかの信号を出す調節部とからなっています。
 一般的に,湿度調節器を使った湿度制御は暖房時にのみ行われています。これは冷房時には室内空気を冷却することによって,必然的に水分(湿度)が除去されることによります。(室内空気を冷却するための熱交換器の表面温度は5〜12 ℃程度で室内空気の露点温度より低いため,熱交換器の表面に結露が生じ水滴〈ドレン〉となります。)エアコンの室内機からドレンとなって排出されている水は,室内の水分(湿度)が集められたものです。この場合,室内湿度は成行きとなりますが,通常は相対湿度 40 〜 70 %の範囲に十分納まります。
 暖房時に加湿をしなければ,室内空気の相対湿度は非常に低い,すなわち乾燥した状態になってしまいます。この乾燥を防ぐために加湿器が使用されます。加湿器にはいろいろな種類がありますが,設置の仕方で分けますと,室内設置型とエアコン機内組込型があります。一般的に,家庭用エアコンや店舗・業務用エアコンの標準タイプでは加湿器は内蔵されておりません。加湿器が必要な場合はオプションとなっています。
 では,室内湿度の制御はどのようにするのでしょうか。大別すると二つの方法があります。いずれの種類の加湿器にも,水または蒸気が供給されています。制御方法の一つは,この供給されてくる水または蒸気を,湿度調節器から送られてくる信号により配管途中に設けられた電磁弁(電動弁)を開け閉めして室内への加湿量を制御するものです。もう一つの方式は超音波加湿器や蒸発皿加湿器などのように,供給された水を一度水槽に貯めて,水槽に取り付けられた超音波発振器や電気ヒーターに通電して霧状にした水分や蒸気を発生させる方式のものに使われているもので,この場合は湿度調節器から送られてくる信号によって超音波発振器や電気ヒーターへの通電を発停して加湿量を制御しています。

(3) 清浄度の調整の方法

 清浄度には先に述べましたようにいろいろな対象物質があります。しかし,それらの調整は,温度や湿度のように室内の状況を検知して制御するというような形にはなっていないのが一般的です。ではどのような方法がとられているかを対象物質ごとに説明します。(清浄度を上げるための機器として別置型の空気清浄機がありますが,ここではエアコンや2次側空調機で使われている方式を対象とします。)

 1)浮遊粉じん(浮遊じんあい)
 エアコンや2次側空調機には送風機が内蔵されており,これによって室内空気を循環させています。浮遊粉じんは,この空気の吸込み側にエアフィルタや電気集塵器という空気ろ過器を設けて取り除いています。どの程度の粉じんが取り除けるのかというのは,そのエアフィルタ等の種類・性能によって変わりますので,選定にあたっては部屋の使用目的や浮遊粉じん発生の度合いを考慮することが大切です。
2)一酸化炭素(CO)
 一酸化炭素(CO)は不完全燃焼したときに発生するガスということを先述しましたが,室内に何らかの燃焼機器(ガス湯沸器やレンジなど)がある場合に発生する可能性があります。また,燃焼機器には燃焼させるための空気の取入れと,燃焼した後の排ガスを室外に出すことが必要です。そのために常に室外より空気を取り込む(外気取入ダクトの設置)とともに,排ガスを排出するシステム(レンジフードや換気扇など)を組むことによって一酸化炭素の増加を防ぐことができます。
3)炭酸ガス(CO2
 炭酸ガス濃度の調整には希釈法(濃度を薄める方法)が採られています。気密性の高い室内では,中に人が入っていれば炭酸ガス濃度は徐々に上昇しますし,燃焼機器があればより早くなります。この濃度の上昇を抑える方法としては,前述の一酸化炭素の場合と同様に外気取入の方式が採られています。
 一般的に,家庭用エアコンや店舗・業務用エアコンで外気を取り入れる場合は,炭酸ガス濃度の制御までは行っておらず成行きとなっています。(但し,炭酸ガス濃度を予測して外気取入量を設定しています。)セントラル方式では,炭酸ガス濃度調節器(CO2 調節器)を使用して,温度や湿度の制御と同様の制御を行っている場合があります。この場合は,炭酸ガス濃度調節器から送られてくる信号により外気取入量を増減させ,炭酸ガス濃度を制御しています。
4)臭い・細菌
 臭いや細菌の除去は浮遊粉じんと同様に,エアコンや2次側空調機の空気通路あるいはダクト内に設けられた脱臭フィルタや光触媒フィルタ・殺菌灯などで行われています。
 一般的に,家庭用エアコンや店舗・業務用エアコンの標準タイプではこれらの機能は装備されていません。オプションか特殊タイプとなっています。セントラル方式においても特別仕様として計画されています。
 どの程度の脱臭・殺菌ができるかは,エアフィルタと同様,脱臭フィルタや光触媒フィルタ・殺菌灯の種類・性能によって決まり,温度調節器のような制御機器は使われません。

[西村 直昭]

第1章で出てきた用語・記号・単位のまとめ

用語記号単位従来単位
乾球温度t℃DB℃DB
湿球温度t'℃WB℃WB
露点温度t''℃DP℃DP
絶対湿度xkg/kgkg/kg
相対湿度RH% RH% RH
比体積(比容積)vm3/kgm3/kg
密度ρkg/m3kg/m3
比熱ckJ/kgKkJ/kg℃
熱量QkJkcal
 (1kcal/kg℃=4.2kJ/kgK)
(1kcal=4.2kJ)       

【第1章参考文献】
1)「 100 万人の空気調和」 小原淳平 オーム社
2)「空気調和衛生工学便覧(第9版・第12 版)」 空気調和・衛生工学会編
3)「空気基礎講座=原理・施行・保守管理=」 ダイキン工業技術教育資料

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